学業成績の良い学校と物質使用の関連

一般的な話として、成績上位の学校に通学する学生の間では物質使用が少ないのではないかというイメージがありますが、実際にこの点を確認した研究はありませんでした。 案外、経済状況や地域性、本人の直接的な知的能力以外の学業成績の良し悪しなんて薬物使用などの問題行動と関係ないかも……それを確かめようとした研究を紹介します。 Assessment of Exposure to High-Performing Schools and Risk of Adolescent Substance Use: A Natural Experiment 成績上位校の環境と物質使用の危険性の評価 ロサンゼルスの経済的に困窮する地域に位置する成績上位校(入学はくじ引きによるので本来の知的能力とは無関係)の生徒と同じ地域に住む他の生徒を比較しました。 合計1270人の調査で、成績上位校の生徒のほうが、マリファナの使用に関する指数や不登校の頻度が少なく、教員による進学援助や環境面の秩序はより整っていました。 つまり、経済状況や本来の能力の差異がなくとも、在籍している生徒の学業成績によって、物質使用をはじめとする行動に大きな影響が生じることが示されました。 これによって短絡的に、行動の障害を改善するために学力の向上を図るべきである、ということにはならないかもしれません。 しかし、因果関係は不明ですが、成績上位校に存在する(経済力や知能以外の)何らかの要素(独立した要因としての学習習慣や行動傾向?)が問題行動の減少や環境面の改善に大きく寄与している可能性が考えられました。

虐待と扁桃体の働きについて

脳の扁桃体といわれる部位は情動と記憶の処理において重要な役割を担っており、不安障害やうつ病、統合失調症など多くの疾患で、機能的な変化が生じることが示されています。 今日は、虐待の体験によって扁桃体の働きがどのように変化するのか、虐待を体験した年代ごとに調べた研究をご紹介します。 Association of Prepubertal and Postpubertal Exposure to Childhood Maltreatment With Adult Amygdala Function 思春期前と思春期後の虐待体験と、扁桃体機能との関連 参加者はアメリカのボストン周辺で精神疾患や虐待体験の有無に関係なく集められました(平均23.2歳、202人)。 自己申告による年代ごとの虐待体験の有無が調べられ、恐怖を生じさせる顔の表情に対する扁桃体の反応を機能的MRIを用いて検査しました。 結果として、幼い時期の虐待は、上記の恐怖刺激に対する反応が低下し、より後年(10代前半)の虐待体験は、同じ刺激に対する扁桃体の反応が増大していました。 上記のように虐待の影響は、体験する年代によって脳に対する影響が異なる可能性が示されました。 虐待の体験は、多くの疾患に結びつくことが示されていますが、上記のような体験時期による扁桃体の機能変化の相違は、影響の多様性の一部を説明するものと考えられます。 現在、扁桃体の機能異常は、多くの精神疾患の基礎にあるものとして注目されており、体験の影響などについてより詳細な理解ができることが望まれます。 #児童虐待

アルツハイマー型認知症の正確な検査を目指して

現在、アルツハイマー型認知症のバイオマーカー(診断の指標となる検査値)としては髄液中のβーアミロイドの低下が有名ですが、髄液の採取には患者さんの苦痛と合併症の危険を伴い、外来で手軽に実施することができません。 今日は、髄液の値を外来でも採取可能な血清で予測できないか調べた研究をご紹介します。 Performance of Fully Automated Plasma Assays as Screening Tests for Alzheimer Disease–Related β-Amyloid Status アルツハイマー病関連βーアミロイドを測定する、スクリーニングテストとしての全自動化血清分析の正確性 842人と237人からなる2つのコホート(研究対象となる集団)について調査が行われました。 健常者や様々な段階のアルツハイマー病について、血清のβーアミロイド42とβーアミロイド40の比(数字はアミノ酸残基の数)を調べ、本来診断において参考にされる髄液中のβーアミロイドの状態を推測できるのか分析しました。 結果として、概ね血清中のβーアミロイドの状態をみることによって、髄液中のそれを推測することが可能であり、この推測は一緒にAPOEの遺伝子型といわれるものを一緒に調べると、より正確に知ることができることが分かりました。 認知症の分類や治療は、徐々に変化しつつあり、適切な治療を行うためには、正確な診断が欠かせません。今回ご紹介した研究はクリニックレベルでも、大きな機材なしで正確な診断をおこなうための助けになると思われました。 Findings In 2 cross-sect

精神病理と脳の構造的変化

精神疾患で皮質や灰白質などの脳の構造に変化が生じることが知られています。 今日は、広範に脳の構造的変化がどのような精神病理に関連するかを調べた研究をご紹介します。 Evidence for Dissociable Linkage of Dimensions of Psychopathology to Brain Structure in Youths 若年者における精神病理と脳構造との関連 フィラデルフィア神経発達コホート(Philadelphia Neurodevelopmental Cohort)と言われる研究対象の集団のうち、1394人の若年者が調査されました。 脳皮質の厚さと体積が高解像度のMRI画像を用いて算出されました。 結果として、恐怖症状の強さはほとんどの神経回路における皮質の厚さの減少と関連していました。また、精神病性の症状は脳全体の灰白質の減少と関連していました。 現在はまだ(認知症等を除いて)脳の画像が診断上重要である精神疾患は少ないですが、上記のような知見が集められ、脳の構造的変化から精神病理についての理解をもっと深めることができるかもしれません。 特に最近は漠然と皮質等の構造を捉えるのではなく、神経回路ごとに構造を把握する試みがなされており、機能(症状)と構造の関連についてさらに認識が深められることが期待されます。 #脳の構造

スマートフォン操作の偏頭痛治療機器

少し以前の話になりますが、アメリカのFDA(食品や薬品の管理を行う機関)がスマートフォンでコントロールする片頭痛の治療機器を認可しました。 Remote Electrical Neuromodulation (REN) Relieves Acute Migraine: A Randomized, Double‐Blind, Placebo‐Controlled, Multicenter Trial 遠隔操作の電気神経治療器が急性の偏頭痛を和らげる 上腕に装着しスマートフォンによる遠隔操作によって、偏頭痛を和らげる電気パルスを発生すると言います。 この機器が認可された背景には上記にリンクを示した252人を対象とする試験の結果があります。ランダム化された二重盲検試験(試験する側も自分が実際の機器を使用しているのか知らない試験)で、月に2~8回偏頭痛を経験している方たちが対象となりました。 本物と電気パルスを発生していない偽刺激とを比較したところ、痛みの軽減については66.7% vs 38.8%、痛みの軽快(freedom from pain)については37.4% vs 18.4%でした。 いずれも偽の刺激に比較して大きく効果を上げており、副作用も少なかったことから認可に至ったようです。 偏頭痛については、ひどい場合には痛みが始まると何もできなくなってしまうこともあり、生活の質に大きな影響を与えることも認められます。 薬が効きにくい場合も多く、今回のような効果の大きい選択肢ができることは、偏頭痛に悩む患者さんにとって大きな助けになると思われました。 #偏頭痛

妊娠中の抗てんかん薬使用と子どもの問題行動

バルプロ酸ナトリウムなどの抗てんかん薬を妊娠中に使用すると、胎児の発達形成に影響を及ぼすことが知られています。 今まで注目されてきたのは、二分脊椎や心室中隔欠損などの身体形成上の問題が主でした。 今回は、多種類の抗てんかん薬の妊娠中の使用について、出産した子供の問題行動について調べた研究をご紹介します。 Behavioral problems in children of mothers with epilepsy prenatally exposed to valproate, carbamazepine, lamotrigine, or levetiracetam monotherapy 母親が妊娠中にバルプロ酸・カルバマゼピン・ラモトリギン・レベチラセタムを単剤使用していた場合における、児の行動上の問題 研究には181人の子どもが含まれ、母親が妊娠中に抗てんかん薬を使用していたか調査されました。26人がバルプロ酸ナトリウム、37人がカルバマゼピン、88人がラモトリギン、30人がレベチラセタムを母親が服用していました。 全体として、抗てんかん薬を服用していた場合、通常よりも出産した子どもの問題行動が生じる確率が高まることが示されました。 通常、臨床的に問題となる行動の出現率が13.4%であるのに対して、バルプロ酸ナトリウムの場合は32%、カルバマゼピンでは14%、ラモトリギンでは16%、レベチラセタムでは14%でした。 他の影響する因子を調整した後で、最も影響の大きかった抗てんかん薬はバルプロ酸ナトリウムで、その他にもラモトリギンの使用で、注意障害が比較的多く生じる等の抗て

睡眠時の呼吸障害は認知機能低下と関連する

睡眠時無呼吸症候群など、睡眠中の呼吸障害が近年注目されています。睡眠の質低下や高血圧などとも関連すると言われていますが、もしかすると脳の機能にも大きな影響を与えているかもしれません。 今回は、少し前の論文になりますが、睡眠時の呼吸障害と認知機能低下との関連について調べた研究をご紹介します。 Association of Sleep-Disordered Breathing With Cognitive Function and Risk of Cognitive Impairment A Systematic Review and Meta-analysis 睡眠時呼吸障害と認知機能・障害との関連 この調査は12の研究を含み、合計の参加者は400万人以上にのぼりました。そのうち6は前向きの研究(研究者の先入観が入りやすい後ろ向きの研究よりも信頼性が高い)で、これらによると、呼吸障害があった場合には認知機能障害を来す割合が26%増加すると言います。 それと、純粋な認知機能低下に加えて、軽度ですが遂行機能の低下についてもリスクの上昇を認めました。 今回、多くの研究を集めた大規模な分析で、呼吸障害と認知機能低下との関連性が示されたと言えます。 因果関係までは明らかではありませんが、睡眠時の呼吸を改善することは、認知機能の点からも重要である可能性があります。 睡眠の質を改善するために睡眠導入剤を使用するときにも、呼吸状態への影響について配慮したいと考えました。 #認知症 #睡眠障害

ヒステリー症状の基礎について

“ヒステリー”という言葉について、特に女性の情動不安定について使用されることがあります。 しかし、専門的には心理的要因が意識障害や身体症状に転換されることを意味するので、大きく一般的なイメージと異なっている言葉です。 身体的には何の異常もないのに、気を失ったり、声が出なくなったり、歩けなくなったりするので、非常に理解しがたい病態として、周囲の人からはわざと演技でやっているように誤解されることがあります。 疾患の存在を理解していただくこと自体が、患者さんが病気を治していく環境を整えるために重要です。 今回は、この“ヒステリー”において生じている脳内での変化について調べた研究をご紹介します。 Limbic neurochemical changes in patients with functional motor symptoms 機能的運動症候群における辺縁系の神経科学的変化 よく知られているMRIと類似で、物質の分布を測定できるMRS:magnetic resonance spectroscopyという画像が用いられました。 様々な物質の分布を、ヒステリー症状(機能的運動症候群:FMS)のある脳と、正常な脳で比較しました。 物質のうち、グルタミン酸が、辺縁系と呼ばれる脳の部位だけで、増加していました。 さらに、運動症状の重症度と精神機能の障害程度は、グルタミン酸の分布の割合と関連していたといいます。 これまでほとんどメカニズムの知られて来なかった「体は悪くないのに症状だけ存在する」という状態の基礎を知ろうとする試みは重要です。この病気が深く理解され、患者さんが治療を受けやすい

芋づる式に治そう!発達凸凹の人が今日からできること 著:栗本啓司+浅見淳子

アレクサンダー・テクニークなど体への働きかけを学び、障害児・者施設などの指導を行っている栗本啓司先生と、編集者の・出版元代表の浅見淳子さんの対談の形式で、発達障害(凹凸)の人を「ラクにする」方法を説いています。 発達障害(凹凸)の人をラクにするためには、身体から働きかけると有効であるということについて、一日の時間帯や季節ごとの関わり等、具体的に描かれています。 主なやり方として、金魚体操や温タオル法等、運動や物理療法を主な方法としています。 こんな方法で発達障害(凸凹)がラクになるわけがない……等、様々な批判があるかもしれませんが、するのは簡単そうだし、少なくとも副作用はなさそうだし、やってみる価値があるように感じます。 実際にやってみた感想としては、……ラクになった気がします。腰のあたりが。 発達障害の症状は、一次障害と二次障害に分けられますが、身体をラクにすることで一次症状に分類されるような特性も軽減するといいます。 一次症状を軽くするのに直接的に働きかけなくても、できるところから(この場合は、身体的なことから)ラクにすることで、「芋づる式」に発達障害の症状の「治療」ができるのではないか、そういう問いかけが含まれているように思います。 すべての人に有効というわけではないかもしれませんが、脳への働きかけとして身体から行うことの効果は徐々に証明されており、薬物を使わない方法としてこのような提案があっても良いと思いました。

マインドフルネスのアプリでタバコを減らす

タバコが健康に悪いことは明らかなのに、どうしてもやめることができない……その依存性と闘うために、マインドフルネス(「今、この瞬間」に注意を向ける心理療法と説明され、瞑想がなどの方法が用いられます)を基礎にした禁煙アプリが役に立つかもしれません。 Quitting starts in the brain: a randomized controlled trial of app-based mindfulness shows decreases in neural responses to smoking cues that predict reductions in smoking ランダム化対照試験で、アプリを用いたマインドフルネスが喫煙刺激に対する反応を減らし、喫煙が減少することを示した アメリカの研究で、33人のアプリを用いたマインドフルネスを行ったグループと34人の他の方法(アクティブ・コントロール)を行ったグループを治療開始から1か月間、比較しました。 通常、喫煙欲求を刺激されると後帯状回と言われる脳の部位が活性化しますが、これがこのアプリを使った場合には抑制され、実際に喫煙量が減少したとのことです。 今までにも依存症にマインドフルネスの効果があることを示した研究はありますが、このように脳の特定部位の反応が変化し、それが臨床的な結果に結びついていることを実証した研究は初めてであるといいます。 マインドフルネスは多くの精神・身体疾患に対する効果が実証されている心理療法ですが、その脳内での具体的なしくみが分かることにより、(今回示された後帯状回という依存性のセンターが関与

発達障害のある子どもができることを伸ばす!(思春期編) 監修:杉山登志郎・辻井正次

多くのイラストを用いて、難しいといわれる発達障害の思春期における関わりについて解説しています。 保護者からしばしば質問される項目が並んでおり、疑問に関する具体的な回答が述べられているので非常に参考になります。 テーマをあげると、 食事のマナー/身だしなみ/整理整頓/日常生活の快適化/体の変化とプライベートパーツ/異性との距離感/月経と体調を知る/リラクセーションのスキル/体を動かす/視線・表情・話し方/困ったとき助けを求めるスキル/やりとり・話し合いのスキル/思春期のコミュニケーション/集団の中の行動/自分の気持ちの把握/怒りのコントロール/不安のコントロール/ノートのとり方/テスト勉強/犯罪被害・加害の防止/余暇の充実…… 他の本では取り上げられることの少ない当事者目線の項目が多く、自分の今までしていたアドバイスについて見直すきっかけになりました。 本の構造としても見開き2ページで一つの項目の解説が完結しているものが多く、知りたいテーマだけをひろい読みしやすくできています。 成長の課題に密着したテーマで、男女についての回答がバランスよく書かれているのも特徴です。 様々なテーマに関して疑問がある場合に、辞書的にも使用できる読みやすい本であると思います。 #発達障害

思春期における物質使用の影響

物質使用による影響と言っても様々で、アルコールやマリファナ、その他の薬剤など各々で影響が異なることが知られています。 以前に、一度のマリファナ使用が脳に与える影響について紹介しました。(記事:一度の大麻使用が脳に与える影響) 今回は、思春期におけるアルコールやマリファナの使用が認知機能にどのような影響を与えるのか調べた研究をご紹介します。 A Population-Based Analysis of the Relationship Between Substance Use and Adolescent Cognitive Development 物質使用と思春期の認知機能との関係についての人口ベース分析 カナダにおける研究で、31の学校に所属する第7学年の生徒3826人が調査の対象となりました。 4年に渡って毎年、アルコールとマリファナの使用、認知機能について調べた結果、まず、アルコールとマリファナ使用に共通の悪影響が多くの領域(今回調べたのは、想起、抽象的思考、抑制、作動記憶)に出現していました。 また、マリファナのみで神経毒性によると考えられる継続した影響が認められました。 具体的には使用をやめた後にも、抑制・作動記憶等の低下が認められ、これはアルコール使用の有無とは関係なく生じていました。 物質関連障害といっても、その影響について一概に言えず、一時の使用がその後の生活に悪影響を及ぼすこともあるようです。 各薬物の特性に沿った危険性を認識し、説明に生かしながら、より原因に近い部分での治療を行いたいと感じました。 #物質依存

発達障害は治りますか? 著:神田橋條治ほか

臨床精神医学の分野で尊敬を集める精神科医の神田橋先生が参加した座談会の様子を記録した内容です。 まず、章立てのみ抜粋させてください。 第1章 発達障害者は発達する 第2章 せめて治そう! 二次障害 第3章 問題行動への対処 「未熟な自己流治療」という視点 第4章 発達障害と教育・しつけ 第5章 治療に結びつけるための診断とは? 第6章 一次障害は治せるか? 第7章 養生のコツをつかむコツ EBMと代替療法 「目の前にいる人をなんとか、少しでもラクにするのが医者の仕事」 そのように言われる先生が、発達障害の患者さんを「ラクにする」方法について語っています。 他にも感覚統合訓練に取り組まれている岩永竜一郎先生、臨床心理士・言語聴覚士の愛甲修子先生、当事者の藤家寛子さん、出版元である花風社の代表である浅見淳子さんが対談に参加されています。 神田橋先生ばかりでなく、岩永先生も発達障害に対する「治療的」取り組みをされており、患者さんを「ラクにする」ための多くのヒントを与えてくれます。 当事者の藤家さんについても、どのように自分は障害を体感してきたか、率直に語られており、実際にどのように働きかけを行うことが患者さんを「ラクにする」のか、教えられることが多かったように思います。 すべての方が、神田橋先生の持ち味である直観的臨床知を敬愛している様子が伝わってきます。しかし、決して「信者の集会」にはなっておらず、それぞれが疑問をもち、尋ねたいことをストレートにぶつけているようにも感じます。 神田橋先生は「僕はね、苦しんでいるところが分かるものだから……」と言われます。 「分かる」根拠は医学的常識

自傷行為が増えている

イギリスのデータですが、自殺目的ではない自傷行為:nonsuicidal self-harm (NSSH)が増えています。 Prevalence of non-suicidal self-harm and service contact in England, 2000–14: repeated cross-sectional surveys of the general population イギリスにおける自殺を目的としない自傷行為の流行と援助への接触 16~74歳における自傷行為のデータが調査されました。自傷行為を行っていたのは前記年齢の人口のうち2000年には 2.4% 、2007年には 3.8%、2014年には6.4% となっており、14年で3倍近くに膨れ上がっています。そして、それらのうち医療などの援助を受けられている場合は少ないということが分かりました。 特に、急上昇を示していたのは若年女性における自傷行為で、2000年の2.5%から 2014年の20%へと他の年代とは一線を画する増加を示しています。 イギリスでなくとも、社会的状況が類似している国では、同様の傾向があると推測されます。 臨床をしていても、自傷行為が精神的不安定さの表現や一時的解決として一般化している印象があります。 少なくとも「自傷行為=悪いこと」という内容を、ご本人にとっての感情的な支えを見つけようとすることなく、押し付けることは避けたいと思います。 直線的な因果関係をたどって根本的原因にいたるような単純な行動ではないように思われますが、本人にとってより根源に近い部分に訴える対応に努めたいと感じ

脳の脈絡叢の大きさと精神病との関連

脳の中にはいくつかの部屋(空洞)があり、それらは脳室(のうしつ)と呼ばれます。 脳室の一部に接する部位に脈絡叢(みゃくらくそう)といわれる部位が存在し、脳室を満たしている脳脊髄液の循環において中心的な役割を担っています。 この脈絡叢は、上記以外にも人体における生理的バリア(障壁)の役割もしており、炎症に関連する物質や、神経発達上重要な神経や血管の成長を促す因子を産生することが知られています。 今回は統合失調症などの精神病性疾患では、この脈絡叢が肥大していることを示した論文をご紹介します。 Association of Choroid Plexus Enlargement With Cognitive, Inflammatory, and Structural Phenotypes Across the Psychosis Spectrum 精神病性疾患における脈絡叢の肥大と認知・炎症・構造的表現型の関連 精神病に罹患した本人とその血縁者、そして健常者の脈絡叢の体積が比較されました。 脈絡叢の大きさは、精神病患者>その血縁者>健常者 の傾向があることが示されました。 また、脈絡叢の体積が大きいほど、認知能力は低く、灰白質が少なく、扁桃体という脳の部位や側脳室が大きいことが分かりました。 頻度的に関連が示されただけで、実際のしくみについては不明なので、現時点では明確なことは言えませんが、今後脈絡叢が行っている神経系の免疫を司る役割も、精神病性疾患において、研究や治療の標的となる可能性があると考えられました。

PTSDの治療(薬物療法と心理療法の比較)

心的外傷後ストレス障害(PTSD)については、治療法に関して議論が多く、薬物療法や心理療法の治療効果の差異についても様々な意見(結果)があります。 今回は、PTSDの治療に関して、薬物療法と心理療法、またはその組み合わせについて、短期・長期の結果を調べたメタアナリシス(複数の研究結果を統合し、さらに信頼性の高い結果を得ようとする研究)をご紹介します。 Comparative Efficacy and Acceptability of Pharmacological, Psychotherapeutic, and Combination Treatments in Adults With Posttraumatic Stress Disorder A Network Meta-analysis PTSD治療における薬物療法・心理療法・それらの組み合わせの有効性と忍容性(治療の受容性)の比較 922人の参加者を含む12のランダム化された臨床試験が分析の対象となりました。 まず、短期的な治療終了までのところでは①薬物療法のみ ②心理療法のみ ③薬物療法と心理療法の組み合わせ の治療効果の差異ははっきりしませんでした。 しかし、長期的に追跡を行っている6の研究では、②と③の治療効果が勝っていました。 薬物療法と心理療法というくくり方も大雑把すぎて、細やかな洞察の得にくい結果かもしれません。 また、薬物療法 vs 心理療法という構図も、本来はメリットやデメリットを考えつつ、個別に組み合わせて行うものなので、乱暴すぎるような気もします。 しかし、疾患の性質から、あるいは上記の結果からも、

依存症に対する認知症薬の効果

認知症薬のしくみの一つとして、脳内の神経伝達物質の一つであるアセチルコリンを増やす役割があります。 このしくみによって認知能力の低下を改善、あるいは進行を抑制するのですが、最近この働きは、依存症の治療にも有効であるとして注目されています。 今回は、認知症薬の中でも、脳内のアセチルコリンを増やす効果と、ニコチン受容体に結合するしくみも持っているガランタミンという薬剤の麻薬依存症に対する効き目について調べた研究をご紹介します。 Double‐Blind Placebo‐Controlled Trial of Galantamine for Methadone‐Maintained Individuals With Cocaine Use Disorder: Secondary Analysis of Effects on Illicit Opioid Use メサドンで症状が安定しているコカイン中毒に対する、ガランタミンの二重盲検試験 メサドンという薬剤で中毒症状自体は安定しているコカイン中毒患者120人が対象となりました。 ①ガランタミン+コンピュータ上での認知行動療法 ②偽薬+コンピュータ上での認知行動療法 上記のグループを比較したとき、治療後6か月間のフォローアップで、薬剤の使用がなかった割合は①:②=81%:59%で、ガランタミンを使用した場合の方が大きく改善していました。 このような麻薬の依存だけではなく、依存症では共通の依存に陥る脳内のメカニズムが存在すると言われており、アルコールやタバコ等についても、ガランタミンなどの認知症薬が有効ではないかと言われています。 依存症

遺伝的リスクスコアと自殺の可能性

複数の場所における遺伝子変異による疾患への罹りやすさを数値化したものを、“Polygenic Risk Scores:遺伝的リスクスコア” と呼びます。 一つの変異では説明できないリスクの程度を、複数の変異を合わせて説明することで、個人の発症リスクの推測に役立ちます。 自殺の可能性と関連の深い遺伝子変異は、単独の疾患ではなく、多くの疾患にまたがっていると言われます。 今回は自殺のリスクを、複数の疾患について遺伝的リスクスコアを調べ、どのようなスコアと関連が深いか示した研究をご紹介します。 GWAS of Suicide Attempt in Psychiatric Disorders and Association With Major Depression Polygenic Risk Scores 精神疾患罹患者の自殺におけるゲノムワイド関連解析、及びうつ病リスクスコアとの関連 うつ病・躁うつ病・統合失調症に罹患した自殺の例とそうでない例について、広範な遺伝子座を分析し、遺伝的リスクスコアを計算しました。 複数の疾患単位を超えた遺伝子変異の関連が示されましたが、中でもうつ病へのなり易さを示すリスクスコアが最も、自殺のリスクが高いことが分かりました。 うつ病のリスクスコアとは言っても、様々な疾患でこのスコアが高い場合が存在し、診断とは独立した意味を持ちます。 自殺のリスクを考えたとき、本人の訴えを注意深く傾聴することが最も重要ですが、例えば、どのような疾患であってもこの数値を客観的に把握することで自殺リスクの参考となる可能性が考えられました。 #うつ病 #遺伝子

子どものADHDと大人のADHD(症候群)

昨日、子ども時代のADHDと大人のADHD(様症状)が不連続であるということをお伝えしました。(記事:ADHD(症状)はどのような経過をとるか?) これは、ADHDの診断基準のうち、子ども時代からの発症を本当に要件とすべきかどうかというところも含めて、以前から議論になっている点です。 今日は子どものADHDと大人のADHD(症候群)について検討したコホート研究(対象となる集団を決めて追跡する研究)をご紹介します。 Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder Trajectories From Childhood to Young Adulthood Evidence From a Birth Cohort Supporting a Late-Onset Syndrome 子供から青年期におけるADHDの追跡結果 ブラジルのペロタスという都市の一定期間に生まれた子ども5249人を対象とした研究です。 上記のうち、11歳の時には393人(8.9%)がADHDと診断され、18~19歳の時点では(子供時代の発症という要件を除く)診断基準を492人(12.2%)が満たしました。 また、子ども時代のADHDのうち60人(17.2%)のみが青年期においてもADHDの症状があり、青年期のADHD(症候群)のうち、60人(12.6%)だけが子どもの時にもADHD症状がありました。 つまり、多くの場合、子ども時代のADHDは青年期まで続かないし、青年期のADHD(症候群)は子ども時代にまでさかのぼることができないことになります。 青年期以降にはじめて診断され

ADHD(症状)はどのような経過をとるか?

子どものADHD(注意欠陥多動障害)を診断する時に、「大人になったら落ち着いてくることも多いです」と説明させて頂くことがあります。 しかし、データも乏しく、実際どのくらいの割合で落ち着いてくるのか具体的に示しにくいところがあります。 また、大人になってからADHDの診断をされる方も増えていますが、そういう場合がADHD全体でどのくらいの割合なのかも明確にはなっていません。 今回は、少し前の論文になりますが、ADHDの長期にわたる経過について調べた研究をご紹介します。 Evaluation of the Persistence, Remission, and Emergence of Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder in Young Adulthood 青年期におけるADHDの持続性・寛解・出現 2000人以上が調査の対象となり、そのうち247人が子どもの時にADHDの診断基準を満たしていました。その後、18歳になってから、依然としてADHDの診断をされたのは54(21.9%)でした。また、元のADHDの症状が強いほど、診断の持続性が高いことが示されました。 さらに、対象者のうち166人が成人期にADHDの症状があると評価され、そのうち112人(67.5%)については子ども時代にいかなる診断基準もみたさない状態であったとのことです。 つまり、子ども時代のADHDの多くは成人に達する前に、基準を満たさない程度にまで軽減し、大人になってADHDの症状があると評価される場合の過半数が、子ども時代には症状がなかったということになります。

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