現在のところ、自閉症スペクトラム障害等の発達障害は、心理検査の組み合わせ、行動観察、両親や支援者・教育者からの聞き取り等によって行われることが通常であると思われます。
その診断過程は複雑で、一つの指標であるポイント以上だったら診断が出るというものではなく、さまざまな要素を組み合わせながら、自閉症スペクトラム障害のいわゆる三つ組(①対人的相互作用の質的障害 ②言葉の遅れ等、意思伝達の質的な問題 ③強いこだわりや反復的行動)の特性が明らかならば、診断を行うという方法が一般的であると考えられます。
しかし、「質的問題(障害)」や「こだわり」の有意性(明らかさ、通常との違い)の解釈には、主観的要素が入り込みやすく、診断の根拠を明確に示すことは困難である場合もあり得ます。
今回は、このような複雑な過程で、妥当性に疑問が生じやすい「発達障害」の診断で、正確さを助けることができるかもしれない血液検査の可能性について調べた研究(2017年)をご紹介します。
酸化ストレスとDNAメチル化の血液学的指標(マーカー)を用いた自閉症スペクトラム障害の分類と不適応行動の予測
3~10歳の自閉症スペクトラムの子ども83人とその兄弟47人、年齢をそろえた自閉症スペクトラム障害ではない子ども76人が研究に参加しました。
血液検査で分かる指標として今回使用されたのは、GSSG、tGSH/GSSG、nitrotyrosine, tyrosine、f-cysteineという5つの物質で、いずれも酸化ストレスとDNAのメチル化という化学反応の過程に関係しているものです。
分析の方法も工夫されており、フィッシャーの分析法(Fisher Discriminant Analysis)やKPLS: kernel partial least squaresが用いられています。
分析法により異なりますが(兄弟間での判別はより困難である等の違いはありますが)、フィッシャーの分析法で自閉症スペクトラム障害の子どもの97.6%を見分けることが可能である等の結果を得ています。
つまり、“酸化ストレスやDNAのメチル化等、今まで自閉症スペクトラム障害で支障があると考えられていた部分の代謝産物の違いを血液で証明することで、より正確な診断ができる可能性がある”と言えそうです。
複合的な要因が組み合わさっている障害であり、マーカーや分析法の組み合わせも複雑になりますが、心理検査や聞き取りからの診断を補うことが期待されました。
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