癌や循環器系・代謝系の疾患については遺伝的リスクに関する認知が進んでおり、個人単位でもその利用(予防対策への応用)がなされつつあります。
しかし、精神疾患に関する遺伝情報に関しては、陽性であったときに実際に発症する割合(検査結果の信頼性)、開示された時の心理的影響、予防法の不明確さ等の問題があるのかも知れませんが、応用が身体疾患よりも遅れている現状があります。
今回は、精神疾患の遺伝情報(ここでは精神疾患関連遺伝子のコピー数)に関して、その陽性率や有用性に関して調べた研究をご紹介します。
医療制度単位で検討した精神神経疾患の関連遺伝子コピー数(copy number variants:CNV)
アメリカのガイシンガー社の医療システムを利用する90,595人が調査の対象となり、精神疾患に関する遺伝子のコピー数(copy number variants:CNV)に関する情報を調べました。
結果として、以下の内容が示されました。
①精神疾患の原因となり得るCNVは708例(全体の0.8%)で同定され、そのうち70%は少なくとも一つの精神症状を伴っていました。うつや不安に関してはCNV陽性の場合は陰性に比べて1.53倍多く(記録上)発症していました。
②CNVに関する情報を開示された人たち(141人)の反応は概ね好意的(前向き)でしたが、中には生涯にわたる認知上・精神医学上の障害に対して知ったことに対する強い反応を示す場合もありました。
つまり、大きな人口に対して精神疾患の遺伝的スクリーニング(病気の可能性を大まかに調べること)には一定の意義があるものの、その情報の解釈や対策の取り方に関しては多くの課題が残されているという結果でした。
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