うつ病やうつ状態の治療に使われる抗うつ薬の副作用の中に、稀ですが重篤なものとして「セロトニン症候群」があります。
抗うつ薬には“セロトニン”と呼ばれる神経の仲立ちをする物質(神経伝達物質)を補う役割があり、この物質の働きが過剰になることが病態として想定されていますが、原因については詳しく分かっていません。
症状として、意識障害・発熱・多量の発汗・筋緊張の亢進・震え等がありますが、通常は影響したと思われる薬剤を中止し、輸液などの適切な対処を行えば速やかな改善を認めます。
今回は、肝臓の酵素であるシトクロム2D6の多型(遺伝子の組み合わせ)によると思われるセロトニン症候群発症の症例についてご紹介させてください。
セロトニン症候群の再発とシトクロム2D6多型の影響
48歳の男性で、うつ症状と行動・認知の障害で入院となりました。パーキンソン病の合併があり、レボドパというドーパミンを補う薬剤を服用していました。元々の服用薬は、レボドパ、トラゾドン、クエチアピン、クロミプラミン、リバスチグミン、ミルタザピンで、入院3日目にベンラファキシンという抗うつ薬が追加(クエチアピン・クロミプラミンとの置き換えを意図)されました。
その数週後より、男性は無気力・寡黙となり、高熱・発汗・筋緊張・全身の震え等を伴う「セロトニン症候群」と思われる病態になりました。
ベンラファキシンを含む全ての抗うつ薬を中止し、輸液等の身体を支える治療を行ったところ、男性は速やかに改善しました。
その後、うつ症状が残っていたため、今度は全体の量を少なくしてベンラファキシンだけを少量を再開しました。すると、その数時間後から意識がはっきりしなくなり、上記と同様の症状が再燃したのです。
この男性は結局、抗うつ薬の使用を避け、他の薬剤を組み合わせることにより改善し、退院しましたが、遺伝子を調べてみると肝臓の酵素のうちシトクロム2D6と呼ばれる薬剤の代謝にとって重要な酵素のはたらきが低下していました。
特にベンラファキシンはシトクロム2D6との関連が深く、今回の症例のように特に激しい「セロトニン症候群」発症の原因になったものと思われます。
他にもこの肝臓の酵素で代謝される薬物は多く、一つの薬剤で過敏な反応が生じたときには酵素の多型による可能性も検討し、共通の代謝経路を持つ薬剤についても、重い副作用の出る可能性を想定する必要があると考えました。
#うつ病 #セロトニン症候群
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