昨日は、臨床的条件を除いても、自然経過として高齢者のうつ病は治りにくく、注意が必要であることをお伝えしました。
今回は、上記のように治療の必要性は高いにも関わらず、高齢者のうつ病は見逃されやすいのではないかという内容の研究をご紹介します。
60歳以上の高齢者におけるうつ病と治療
スウェーデンのストックホルム中心部の居住者における研究で、認知症のない60歳以上の3,084人が対象となりました。
臨床医が診察し、国際的診断基準(DSM-IV-TR やDSM-5)に沿って診断が行われました。
結果として、以下のことが示されました。
①うつ病の有病率は5.9%でした。そのうち、8.3%では抗うつ薬を処方され、0.9%では精神(心理)療法が行われていました。
②うつ病と診断された高齢者のうち半分近くは抗不安薬、睡眠薬のみが処方されていました。
つまり、うつ病の高齢者のほとんどは本来のうつ病の治療はなされておらず、睡眠薬や抗不安薬のみを処方されている場合が多いと言えます。
イメージとは異なり、専門的には睡眠薬や抗不安薬よりも(様々な副作用や効果の側面はありますが)抗うつ薬の方が安全性が高く、依存性が低いと言われています。
しかし、それでも抗不安薬や睡眠薬などのいわゆる「安定剤」と「抗うつ薬」とでは、患者さんや家族にとっての印象がかなり違います(「安定剤」の方が「軽い」薬であるという実際とは異なる認識が多いと思われます)。
それに、医師の間でも「安定剤」の方が処方しやすい(「抗うつ薬」の方が扱いにくかったり、患者さんやご家族にネガティブな印象を与えてしまう可能性を考慮する)場合は多いと思われます。
抗うつ薬をもっと使用するべきという話ではないのですが、少なくとも本当のうつ症状を十分見極めた上で、睡眠薬・抗不安薬の処方は注意深く行う必要があると考えられました。
#うつ病
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