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物忘れについて


今日は「物忘れ」について書きたいと思います。

よく患者さんから、「認知症と良くある物忘れの境目って何ですか?」と訊かれます。

なかなか答えづらい質問です。

これに確信を持ってバシッと答えられないのは、私の修業が足りないだけでしょうか?

一応、認知症についての解説を行っている本には「病的な物忘れ」と(普通の?)「物忘れ」との境界についての解説があって、例えば「人物」に関する物忘れについて良くある例を挙げると「ある人物の情報、つまり正確な名前や年齢、住所、電話番号等を忘れることはあっても、その人の相貌や大まかな人となり、印象は覚えている」ような場合はセーフ、すなわち病的な物忘れではない、と言われます。

だから、「あれ? えーと、あの人、名前なんて言ったっけ? ほら、あの時お世話になった……ほらっ、背が高くてスラーッとした……」とか、ほとんど具体的情報が何も出てこないような場合でも、ある程度人物像がイメージできている場合は「病気」の物忘れではない可能性が高いと言えます。

この例で、結局何が伝えたいかと言うと、ある出来事なり対象について、記憶がごっそり丸ごと抜けてしまうような「粗い」物忘れは病気だけど、情報の部分的抜け落ちである「細かい」物忘れは病気じゃないかもしれませんよ。そういうことが言いたいんだと思います。

とは言いながら、こういう具体的なエピソードを拾いながら、診断についての大まかな予想を立ててはみても、実際に標準化された心理検査をしてみると高度な認知症と言えるレベルであるようなこともしばしばです。

だから、「細かい」ことを大切にすればは患者さんの疑問に答えることがどんどんできなくなってしまうような気がします。

どうも科学的な物言いで、グラデーションのようなあいまいな境界を形容すること自体に無理があるような気もするのですが、それでも診断の白黒をはっきりさせなければならないという社会的要請があることも事実です。

だから、短時間でバシッと診断はできなくても、粘り強い聞き取りや観察、神経心理検査等の客観性のある証拠の組み合わせを行い、できるだけ再現性の高い正確な診断をしたいと思います。

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