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仕事と精神疾患


時々、ある研究が論文として発表されましたというニュースの中で、「そんなこともう知ってるよ」という感想を持ってしまうものがあります。あくまでも例えですが、「ポテトチップスを食べ過ぎると太ることが分かりました!」とか、「ついに睡眠不足は体に悪いことが判明!」とか……こういう発表をすごい発見みたいに言われても「いまさら何を……」と思わないでしょうか?  Lancet Psychiatryという医学雑誌で発表された論文を読んで、申し訳ないけど、上記のような「いまさら」感を禁じ得ませんでした。 一文を抜粋すると “High job strain appears to independently affect the risk of future common mental disorders in midlife(仕事上の大きな負担は中年期における精神疾患の独立した危険因子と思われる)” ちなみに、ここで「仕事上の大きな負担」と言っているのは、早いペースの、強度の高い労働で、両立困難な要求があり、自分で意志決定できる部分が少ないものを意味するとのことです。うん、確かにそれはしんどい仕事です。やってられなくなりそうです。 でも、要するに論文の主旨としては「仕事で無理すると病気になるよ」と言っているんですよね?  なんかやっぱり「当たり前だよ……」という感じがしてしまいます。 しかし、こういう当たり前(と思われていること)をしっかり研究するのには、それなりに理由があるらしいのです。 今までの研究でも同様の結論はあったのですが、それらは他に存在していた様々な要因を調整できず、因果関係の証明としては弱い部分があったというのです。 非常に大ざっぱに言えば、様々な原因となりうる事柄が同時に存在するとき、それらのうちどれが原因なのかは明らかにできないということだと思います。 今回は仕事の負担以外の原因を統計上の手法で調整して、「仕事の負担→精神疾患」という因果関係の証明をできる限り正確に行ったところに意義があるとのことです。 政策上の決定や、精神疾患予防のための予算を得るためには、このような地道な研究努力がどうしても必要になると聞いたことがあります。「当たり前」のことをいかに説得力をもって説明するかが、私たちの日常生活(今回の例では“働き方”)を変える上で、大変重要になってくるのでしょう。 今回の論文では、一見、当たり前に思える因果関係を純粋に証明するために、どんなに研究者が苦労しているのか、そこにどんなに深い意義があるのか、改めて少し勉強になった気がしました。


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