そんなに冊数を紹介したわけではないのに、また熊倉伸宏先生の本です。
「君は熊倉先生以外の本を読んでいないのか!?」「はい!!」と答えても私の場合、誤差の範囲かもしれません。
私は恥ずかしながら、この本を読むまで「光化学スモッグ」に関連してこれほどまで、心因論あるいは心因説の意義が問われた事態があったとは知りませんでした。
仕事柄、脳とからだの間にある“何か”を“こころ”と呼び、それを治療や保護の対象とすることに、実際上の必要性を感じてきました。
しかし、その“何か”を臓器間の相互作用による幻ではなく、実体のあるものと言い切る自信もなく、時間を過ごして参りました。しかし、あやふやなことを、あやふやなまま放置して無自覚に言葉を運用することが如何に人を傷つけるのか、そんなことをこの本で学んだ気がします。
冒頭の一部を抜粋させてください。
……精神科医が患者に「精神的とは何か」「心因とは何か」と問われる。それを受け止めようとした経験豊富な精神科医が、患者の問に答えられなかったと気付く。患者に「心因」について問われても答えられない。そのことこそが、実は、新しい臨床的発見であったと気付く。その後、精神科医たちは如何に考え、如何に行為したか。その記録である。まずは、先入観なしに、実際に起きた事実を知っていただきたい。……
「はい」とゆっくりと返事をして、もう一度読み始めたいと思います。