耐え難い痛みと緩和的鎮静について


今日は、癌に関連した耐え難い痛みが生じたときに、苦痛緩和のための鎮静がどの程度容認されるかについて考えてみたいと思います。

医学雑誌に連載されているMGH(the Massachusetts General Hospital)という病院の臨床記録から見てみます。

44-Year-Old Woman with Intractable Pain Due to Metastatic Lung Cancer” 転移性肺癌のために難治性の痛みを認めた44歳女性の症例

N Engl J Med 2015; 372:2137-2147 DOI: 10.1056/NEJMcpc1404141

概略は以下のようになります。

「44歳の女性が肺癌の多発性転移から耐え難い痛みを生じた。化学療法や放射線治療も効果がなく、麻薬性の鎮痛薬も彼女の痛みを軽減することができなかった。通常、麻薬製剤はWHOの階段状の使用を行うことで一定の効果を上げ、患者の痛みを和らげることに貢献する。しかし、この患者においては麻薬製剤を用いることでかえって痛みが増強する奇異反応といわれる特殊な現象が生じていた。全身に転移した癌により、彼女は末期の状態にあり、しかも常に強い痛みにさいなまれていた。あらゆる手段はほとんど無効で、彼女が唯一安らげるのは向精神薬を用いて眠っている時だけであった。しかし、それにしても目覚めれば再び耐え難い痛みが帰ってくる。意識ははっきりと保たれており、自らの意思を表明できる状態にあった。彼女の一番怖れていることは、この耐え難い痛みの中で苦しみながら最期を迎えることだった。彼女の痛みを和らげる方法が繰り返し話し合われた。彼女の痛みは、癌の病勢と一致しており、うつや不安等が主な原因であるとは考えにくく、精神科医学的治療が効果的であるとも考えにくかった。彼女の治療に当たる緩和ケアチームは、本人や家族と話し合いを重ね、苦痛緩和のための鎮静を行う選択肢を考慮するに至った。」

苦痛緩和のための鎮静とは、苦痛を和らげるための他の手段がないときに患者さんを眠った状態(あるいはそれに近い状態)にすることです。持続的に鎮静を行う場合には、呼吸が抑制されて人工呼吸が必要になったり、栄養が摂れないため高栄養の輸液が必要になったりします。

ここで挙げられている女性の場合は、人工呼吸も、人工的な栄養も拒否されていたので、鎮静を続けることは、近いうちに死を迎えることを意味していました。

そして、実際にこの女性の場合は、短時間の鎮静ではすぐに痛みが戻ってきて効果的ではなかったため、持続的な鎮静が行われ、数日後に死亡しました。

この選択は正しかったのか、絶対的な答えはないのかもしれませんが、明日はこの臨床記録につけられた考察を読みながら、もう少し考えてみたいと思います。

#身体医学 #倫理 #終末期医療 #向精神薬

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