薬物依存者リハビリセンター「ダルク」の開設者である近藤恒夫さんの書かれた本です。
薬物依存について「意志が弱いから」、「家庭環境が悪いから」等原因について良く言われる内容について、真っ向から反対しても薬物依存の治療をめぐる状況が改善するようには思えない部分があります。
意志が弱い……確かにそういうこともあるかもしれません。家庭環境のせい……確かにきっかけのところでは環境は大きく影響していたケースも多い気がします。
ただ言えるのは、薬物依存についてもっと理解することが必要だということ。薬物依存を知ることは、意志が弱いこともある、いつも望ましい環境で暮らせるわけではない人間を理解することにつながるような気もします。
この本は、当事者でもあり、援助者でもある立場から書かれており、依存(アディクション)とそうならざるを得ない「人間」の理解のきっかけになる本だと思います。
冒頭の部分を少し抜粋します。
「私は、薬物依存とは『痛み』と『寂しさの痛み』の表現だと受け止めている。『痛み』とは身体的な痛みで、『寂しさの痛み』とは自分は学校や社会の中で必要とされていない、役に立たないという気分の悪さ、疎外感、虚しさ……という心の痛みである」
依存症の治療には、どうしても「厳しさ」が必要な場面もありますが、根本のところではこの「寂しさ」に対する共感が必要な気がします。
もう少し、印象的だった家族の述懐を抜粋させてください。
世界を飛び回っていたエリート商社マンだった父が、シンナーを止めようとしない長男の首を絞め、包丁で刺して殺害した事件でのものです。
「私は、息子がシンナー中毒とは思わなかった。それに関する本も読んだことはない。息子は心の深いところで劣等感があったと思う。息子は『私を一人にしてほしい』と置き手紙をしたことがあった。精神的にも経済的にも親から独立したいという気持ちはあったと思う。しかし、あまりにも幼すぎた。多少抵抗されても、警察に捕まっても、野たれ死んでも、親離れ子離れをした方がよかったと思う。それが最大の反省です」
何が正解なのか、どのような対応が本当に望ましいのか分からない事例も多いのですが、ご本人についてはもちろんですが、家族の痛みについても理解したいと思いました。