ご自身がひどいうつ病を体験した医師の本です。うつ病発症のしくみ等の解説から経験にそった病気の状態、治療、回復術をくわしく述べられています。
この種の本の中では、比較的字が細かく文章量があるので、うつの方が調子が悪い時に読むのにはちょっと向いてないかもしれません。しかし、その分情報量が多く、うつの一般的解説も詳しいですし、経験をもとに書かれた実感がこもった養生訓も気づかされる部分が多いです。
1章 人はなぜ、うつ病になるのか
→一般的な解説にあたる部分ですが、著者の見解や切り口が新鮮で、教科書とはちがった解説が読めます。
2章 うつ病は「理屈なく」つらい
→うつ病独特の思考や希死念慮などについて詳しく述べた章です。うつ病になった方にしか分からない感覚や思考の傾向をつかむきっかけになればと思います。
3章 うつ病からの回復術
→経験をもとにした治療戦略や回復術・生活術について詳細に述べられています。本書の中心にあたる部分です。
自分が最初に読んだときに印象に残った部分を抜粋させてください。
「……外岡氏によると(ここの前の部分で他の著書『憂うつの心理』外岡豊彦著について紹介しています)、心身の病的抑制を打破して目前の行動に踏み切るには『ともかく主義』が良いという。もしも不登校の子どもがいたとする。で、朝起きたら何も考えずに、『ともかく顔を洗う』、『ともかく食事する』、(中略)『ともかく服を着る』、『ともかくカバンを背負う』、『ともかく靴をはいて家を出る』、家を出れば大抵、学校も会社も行けるもの」
「(英国のパデル博士の講演から)すべての精神疾患は高い理想と、そこに至らない現実の自己とのズレに悩んで発症する」
「(家族の中の意見の対立について)それぞれにおいては自分の意見が100%正しいと確信しているわけで、どちらかが引いて間違いを認めるか、相互に言いたいことをすべて言った上で結論を保留するか、どちらかしかない」
「(相手の言い分を聞くことについて)そのような理屈にしがみつかざるを得ない相手のせつない気持ちを分かってあげようとすること、相手が上手に引き下がることができるように相手を辱めないことが大事」
「人はなぜ自殺するのか? それは『今よりも、もっとよりよく生きたい』からである」
この本独自のものではないところもあるかも知れませんが、「ともかく主義」を始め、うつ病やうつ的になっている方が、なんとかやっていく(生きていく)ためのヒントに満ちています。うつ病(うつ状態)のサバイバル本としておすすめの内容です。