現在までにマインドフルネスの慢性疾患に対する効果など、心理療法の身体疾患への効果を示した研究を取り上げてきました。
実際、繊維筋痛症や癌性疼痛などの鎮痛を緩和する上でも認知行動療法やマインドフルネスなどの認知的アプローチが有効であるとの研究結果が多く、精神疾患のみではなく広く身体的疾患(特に慢性疾患)に対して心理療法の適応が話題として取り上げられる機会が増えています。
今回は、特に若年者の腸の炎症性疾患(精神状態も関与するものとしてクローン病や潰瘍性大腸炎等難治性の疾患が有名)に対して認知行動療法の有効性を調査した研究をご紹介します。
疾患特異的な認知行動療法の不安・抑うつ・生活の質(QOL)に関する有効性
炎症性の腸疾患と病的レベルには至っていない不安や抑うつを呈する70名の若年患者が対象となりました。
対象者を
①通常の身体的治療+疾患に合わせた認知行動療法のプログラム
⓶通常の身体的治療のみ
以上の2つのグループに分けて、不安・気分の落ち込み・健康関連の生活の質について調査しました。
治療を開始後3か月後の状態で、⓵と②のグループとも大きく不安・気分の落ち込み・生活の質は改善していましたが、2つのグループの改善の程度には明らかな差がありませんでした。
もちろん、今回の結果のみをもって、炎症性疾患には認知行動療法の効果が薄いと判断することはできません。
現在、慢性的な身体疾患には心理療法が広く有効であるとの見解が定着しつつありますが、今回の結果のように、適応の方法によっては明らかな効果を生じないこともあるようです。
今後は、疾患の種別や実施の方法などによってどのような差が出るのか、さらに詳しい研究が必要であると感じました。