統合失調症や躁うつ病等の精神疾患の治療に使われる薬剤には、他の用途で使用されていたものが転用されたり偶然に発見されたものが数多くあります。
統合失調に使われる薬剤の元祖として有名なクロルプロマジンは麻酔併用薬の転用ですし、躁うつに使用される金属のリチウムは、動物への使用から偶然その効果を見出された薬剤です。
このようにある目的をもって開発されたわけではない物質が、現在の薬物療法の根幹を支えているという事実があります。
今回ご紹介するのはこのような機会につながるかもしれない古い薬剤の再発見に関する研究です。
高脂血症薬(HMG-C0A阻害薬)、高血圧薬(カルシウム拮抗薬)、糖尿病薬(ビグアナイド剤)の使用と重篤な精神疾患における入院・自傷改善への効果
スウェーデン全土の統合失調症・躁うつ病等の精神疾患罹患者142691人が調査の対象となりました。
他の要因を調整した上での精神科入院の危険率(通常との比較で入院がどれくらい起こりやすいか)は以下のようになっていました。
①躁うつで高脂血症薬0.86、高血圧薬0.92、糖尿病薬0.80
②統合失調症で高脂血症薬0.75、高血圧薬0.80、糖尿病薬0.73
③その他の精神病で高脂血症薬0.80、高血圧薬0.89、糖尿病薬0.85
上記はいずれも薬剤を飲んでいる場合の方が1よりも小さく、入院のイベントが少ない(症状がわるくなることが少ない)ことを意味します。
詳細は異なりますが、自傷のイベントについてもほぼ同様の傾向が認められ、ここで挙げた3つの薬剤についてなんらかの精神作用があるのではないかと論文中では推定されていました。
これを読んでいる時に、薬剤の排出遅延や蓄積による影響だけではないかという気もしたのですが、こうした現象が起こっているしくみについても以下のような考察がありました。
①高脂血症薬(HMG-C0A阻害薬):以前から知られている抗炎症作用、併用している向精神薬の吸収増大
②高血圧薬(カルシウム拮抗薬):躁うつや統合失調症で想定されているカルシウムの伝達機能不調に対するコントロール
③糖尿病薬(ビグアナイド剤):代謝を調整することによる認知や気分の改善
実際に上記のようなことが起こっているかは、さらに詳しい研究が必要と思われます。
薬剤開発には多くの時間と費用を要します。すでに使用されている薬剤の中から、症状改善に役立つ薬剤が見つかると症状軽減そのものや経済的な負担軽減の点でも患者さんの利益になると思われます。これから、そのような薬剤が登場する可能性を感じさせる論文でした。