以前から「腸内環境」という言葉が聞かれるようになり、それを正常化する食品などが勧められているCMをみることがあります。
実際に腸内の細菌がどのように存在しているかによって、炎症性疾患や免疫系の疾患が影響を受けることが示されており、「腸内環境」は今、最もホットなテーマの一つと言えます。
今回は認知症と腸内細菌との関連を調べた研究をご紹介します。
腸内細菌叢(さいきんそう)と認知症の関連分析:日本で行われた横断的研究
著者の勤務する病院の認知機能外来に通院している平均74.2歳の患者128名が研究の対象となりました。
認知機能検査とMRIが施行され、さらに腸内の細菌叢(細菌の分布)を調べるため、便サンプルにT-RFLPという細菌の割合を正確に知る手法が用いられました。
その結果は以下のようになりました。
①バクテロイデス(enterotypeⅠ)という通常の状態で腸内にみられ、有益な働きを行っている可能性のある菌が認知症患者では低下していました。
②その代り認知症者で‘enterotypeⅢ’と分類される菌が増えていました。
これらの特徴が通常の認知症マーカーとは関係なく認められたことから、腸内細菌が独立した治療の標的になり得るのではないかと述べられていました。
同時に、今回の研究は横断的研究という手法で、一時の分布結果をしめしたものでしかなく、ここから因果関係を導くことはできないことや、一つの病院での偏った集団で、しかも食事内容など、結果に影響しうる因子についての検討が十分なされていないことなどが大きな限界として指摘されていました。
しかし、腸内の細菌叢が精神機能にも大きな影響を及ぼす可能性については、以前から大きく取り上げられており、徐々に研究が進んでいる段階です。遠くない将来に脳の病気の原因が腸内にあったという意外な報告が聞ける可能性も高いと思われました。