統合失調症の治療では、多くの場合、抗幻覚妄想作用や鎮静作用等を求めて抗精神病薬が治療の中心となります。
しかし、それだけでは症状の軽減につながらない時やもっと他の症状で困っている時に追加の薬剤を考えることがあります(この点は単剤化がすすめられている最近の傾向も考え、追加するのではなく変更して単剤にこだわった治療方針を維持するべきだという意見もあると思います)。
以前から、良く好まれる処方として、他の抗精神病薬の追加、眠剤や抗不安薬としてのベンゾジアゼピン系薬、気分の安定や衝動性の軽減を目的とした気分安定薬の追加があります。
そして、どちらかというといわゆる「アクチベーション」と言われる行動の活発化、衝動性の亢進を嫌って、抗うつ薬等は追加の選択肢には入れない傾向があるように思います。
今回の調査の結果をみると、この傾向に異議を唱える余地がありそうです。
統合失調症治療における補助的向精神薬の有効性比較
アメリカの保険データであるメディケイドを使って、一つの抗精神病薬で治療されていた統合失調症患者81921人の薬物治療選択が調査の対象となりました。
結果は以下のようになりました。
①追加の補助薬として抗うつ薬を選択した方が抗精神病薬を追加するよりも精神科入院の危険率が低かった(0.84倍)。
②ベンゾジアゼピン系を選択した場合は抗精神病薬よりも入院の可能性が高くなった(1.08倍)。
③気分安定薬は抗精神病薬と大きな違いはなかった。
④抗精神病薬に比較した、救急病院受診の割合については抗うつ薬0.92倍、ベンゾジアゼピン系1.12倍、気分安定薬0.99倍だった。
⑤気分安定薬の追加は死亡率の増加(1.31倍)につながっていた。
症状の悪化について、この調査では入院や救急受診の割合でみており、もっと細やかな指標については不明ですが、少なくとも明らかな症状悪化を示すイベントを指標にした際には、抗うつ薬の追加が補助薬の選択として妥当である可能性が考えられます。
しかし、そもそも抗うつ薬が補助薬として選択される場面と、抗精神病薬やベンゾジアゼピン系・気分安定薬を追加せざるを得なくなる場面とでは、対処しなければならない症状が異なっており、これは薬剤選択の問題ではなく合併している症状の違いをみている可能性を(交絡因子といわれる他の要因を調整したとしても)排除しきれないとも考思われました。
しかし、現時点では症状に合わせた補助薬の選択を行いながらも、追加の薬剤によってはかえって身体面も含めた長期的予後に悪影響のある可能性を検討する必要があると考えました。