身体醜形障害(しんたいしゅうけいしょうがい)という精神疾患についてお聞きになったことがあるでしょうか? 日本では長年「醜形恐怖(しゅうけいきょうふ)」と呼ばれてきたので、そちらのほうが広く認知されているかもしれません。
自分の顔や体の形状・美醜に異常にこだわり、日常生活が大きな影響を受ける疾患で、そのために対人関係が破たんしたり、学校や仕事などの社会参加、著しい場合には外出も困難になることがあります。
強迫性障害の関連障害と位置付けられていますが、疾患特異的な治療法に乏しく、この症状に焦点をあてた研究は少ないのが現状です。
今回ご紹介するのは、この疾患に対する心理療法として認知行動療法と支持的精神療法のどちらがより有効かを調べた研究です。
身体醜形障害の成人に対する認知行動療法と支持的心理療法の有効性と治療後の影響
2011年から2016年の間に2つの病院(アメリカのマサチューセッツ総合病院とロードアイランドホスピタル)で集められた120名の身体醜形障害(Body Dysmorphic Disorder: 以下BDD)の患者が調査の対象となりました。
認知行動療法を受けるグループと支持的心理療法を受けるグループとにランダムに振り分けられて、24週にわたって毎週、心理療法を受けました。
認知療法とは気分や行動に影響を与える「認知の歪み」に焦点をあてた治療法で、さまざまなモジュール(手法)を用いて思考の内容を治療者と検討していく姿勢に特徴があります。
支持的心理療法とは、指示や助言よりも傾聴を中心とする受容的態度を中心とする心理療法で、相談者との信頼関係や自尊心を重視する姿勢に特徴があります。
双方のグループで治療開始と治療後で、強迫性障害の評価尺度をBDD用に修正したスケールで重症度を測定したり、生活の質(QOL)、うつ症状、生活上の機能障害などが調査されました。
結果として、両方の心理療法で大きく症状は改善していましたが、全体としてみたときには認知行動療法の方が大きく重症度と生活の質の点でBDDの改善に貢献していました。
日本の保険診療のしくみと診療体制の中で、構造化された本来のスタイルの認知療法をしっかりと行うことは困難ですが、なんとか限られた条件の中で、認知に焦点をあてた心理療法を維持し、より有効に行いたいと思いました。