最近、VR(バーチャルリアリティ)に関連する論文が増えているのを実感します。
先日もVRを術後に使用した場合には、疼痛が軽減し、薬剤の使用量も少なくなることを紹介しました(記事:バーチャルリアリティによる催眠で術後の痛みが軽減する)。
セラピストと1対1で行う心理療法は非常に高価で、特定領域の治療ができる専門家も少ないため、いわゆるアクセシビリティ(入手し易さ)に問題がある点を否定できません。
今回は高所恐怖の治療をVRアプリで行った場合の効果を検証した論文をご紹介します。
Effectiveness of Self-guided App-Based Virtual Reality Cognitive Behavior Therapy for Acrophobia A Randomized Clinical Trial
自分で行うVRアプリによる認知行動療法の高所恐怖に対する効果
高所恐怖を持つ193人をアプリを使用して認知行動療法を行うグループとウェイティングリスト(何もしないグループ)に振り分けました。
3週間のアプリ使用後、効果をAcrophobia Questionnaire:高所恐怖質問紙で確認したところ、大きなスコアの減少を認め、治療効果を得るために必要な治療数(number needed to treat)は1.7とかなり優秀な値を示していました。
Zerophobiaという名のこのアプリは厚紙とスマートフォンとを組み合わせて作る自分でできるVR治療器で、アプリを検索したところ使いやすそうなインターフェースを持っており、比較的脱落も少ないようです。
高所恐怖の治療をしたいとクリニックに受診される方は今までのところ一人もいませんが、実際には様々な恐怖症で悩まれている方は多いと思います。
このような場合に提供できる治療の選択肢は一般的な不安階層表を用いた認知行動療法や抗不安薬の使用になる可能性が高く、恐怖症に特化した専門的治療がすぐに入手できる状況ではないと言えます。
こういったアプリや器具が普及したとしても、専門的治療を提供できる心理療法家の役割がなくなるわけではありませんが、そのような治療手段に出会うことができず、薬は使いたくない場合の貴重な選択肢の一つになり得ると感じました。