先日、ヘッドホン型の脳刺激を行う装置で不安・不眠・うつが改善するという内容をお伝えしました。(記事:ヘッドフォン型装置で不安・うつ・不眠を改善する)
磁気や電流によって脳を刺激する方法は、まだメカニズムが十分に分かっていない点もありますが、薬剤の効果が認められなかった場合でも有効なことがあり、また副作用も少ないため、今後もっと頻用されて良い選択肢であると考えられます。
今回は、少量の電流を流すことで加齢に伴う作動記憶の低下を改善する試みについてご紹介します。
脳回路のリズム同期で高齢者の作動記憶(ワーキングメモリ)を回復
42人の若年者(20~29歳)と同数の高齢者(60~76歳)のグループを作り、作動記憶(情報を即座にやり取りするためのごく短期の記憶)の課題を行いました。
若年者では課題を行うと左側頭の皮質における脳波の変化や前側頭部におけるシータ波の同期が認められますが、高齢者ではこのような脳波の特徴が少なく、課題における速度や正確さで低下を認めました。
しかし、高齢者のグループにおいて、頭皮から交互に少量の電流を流す刺激:transcranial alternating current stimulation (tACS) を加えると、脳波の変化を認め、作動記憶の成績が向上しました。また、この変化は電気刺激の開始から間もなく現れ、刺激を中止した後も50分間継続したとのことです。
上記の加齢による脳波の変化は神経接続の減少による相互作用・同期作用の低下を表しており、tACSによる脳刺激で神経回路が元の相互作用を回復したと考えられました。
作動記憶が低下するのは加齢による場合のみではなく、パーキンソン病、統合失調症、自閉症等においても認められます。
効果の持続性には疑問が残りますが、実際に有効性が確立されると、適用範囲の広い治療法になる可能性があると感じられました。