うつ病の時などに胃腸の調子が悪くなることがあります。ストレス関連の消化管の機能障害と考えることが多いのですが、実は腸内環境が不安やうつなどの精神症状を引き起こす場合もあるようです。
現在、統合失調症やうつ病などの精神疾患に関して、腸の細菌叢が産生する物質が神経機能に影響を与えている可能性が指摘され、研究が進められています。
今回は、子ども時代の養育環境の逆境が腸内環境の悪化を引き起こし、さらにそれが精神症状を引き起こしているいるのではないかという疑問に答えようとした研究をご紹介します。
心と腸:逆境を経験した子どもにおける気分と消化管失障害の関連
①実の両親の元で養育された子どもたちと、②養育上の問題があり施設などに収容されている子どもたちについて、総計344名が調査の対象になりました。
まず、第1段階の調査として、5年間にわたって、消化管障害と不安などの精神症状を調べました。ここで、②の逆境に接していると考えられる子供たちのほうが、消化管障害やそれに続く不安などの精神症状が多いことが示されました。
さらに2段階目の調査として、便のサンプル採取と不安を引き起こす画像を見た時の機能的画像撮影が行われました。そこでも②のグループでの腸内細菌叢の変化が大きく、不安を引き起こす画像に対する反応が鋭敏であることが示されました。
上記のような複数の調査の組み合わせで、子ども時代の養育上の問題⇒消化管障害(細菌叢の変化)⇒不安などの精神症状 という関連を証明しようとしました。
因果関係が上記の調査のみで証明されたとすることは困難と思われます。しかし、可能性として「心理的環境と腸内環境の相互作用」、「腸内環境と精神症状との相互作用」の2つの関連は部分的に示されているように感じました。
腸内環境は神経伝達に影響を与える巨大な化学工場として注目を集めており、これから精神症状を語る上では重視するべき要素であると思われます。