パニック障害とうつ病を経験した医師であり、芥川賞作家である著者の病後の生活をみつめたエッセイです。
短いエッセイ40編と短編小説3編を含んでおり、短時間で疲れずに読むことができます。
最初のエッセイから、著者自らと重なる「山田長吉」という名の医師について書かれた部分を抜粋させてください。
「山田が三十九歳になったある秋の日、いつものように病棟の回診に向かった彼は突然、激しい動悸とめまいに襲われ、廊下に倒れてしまった。すぐに他の内科医の手で病室に移され、数日入院して検査を受けたが体に異常はなかった。しかし、病棟に行くと動悸がして体が緊張し、冷や汗が出て仕事にならなかった。死への不安と誘惑にかられた彼は精神科を受診し、ストレスをボディーブローのように受け続けた結果としての心の病気、と診断された。」
訥々と語られる日々の出来事や過去の回想……なぜか、この人の文章を読むと気持ちが穏やかになります。
著者が医師になってから身に付けた中で最もインパクトを受けた知識は、「人は必ず死ぬ」ということであったと言います。
全体として、“何とか生きるということ” について書かれた日記のように感じます。