精神疾患についてはいわゆる“多因子モデル”というものが提唱されていて、多くの精神疾患について「遺伝などの生物学的な原因や社会経済的な環境要因、心理学的な要因が複雑に関与している」という説明がなされます。
確かに原因を一つに絞るということは難しいのですが、なるべくその多様な影響を実際の客観的事実として把握する努力が大切であると思われます。
今回は子どもに対する社会経済的な要因と心的外傷にあたるような高いストレスがどのように精神症状に影響したり、脳の構造変化を起こすのかを調べた研究を紹介します。
若年における精神病理、成熟、脳‐行動指標と環境的負因との関連
アメリカ、フィラデルフィアの“コホート研究”と言われる手法の研究で、8~21歳の9498人が調査の対象となりました。
上記の対象者について主として(1) 感情障害、統合失調症、精神的成熟に関する精神病理的データ、 (2) 記憶等の神経認知的データ、(3) 脳の構造と機能を調べるための画像データが集められました。
結果として、
(1)精神病理的には社会経済的な困窮と心的外傷の両方が不安やうつ、恐怖、行動化、精神病症状に関連していましたが、心的外傷の方がより強い影響を与えていました。そして、困窮と心的外傷の両方とも精神的成熟を促進する要素であることが示されました。
(2)認知面では、社会経済的困窮が全体的に能力を低下させていましたが、心的外傷は記憶面でやや高い能力と複雑で理論的な思考の低下を示していました。
(3)脳の構造や機能を表す画像上の変化については、社会経済的困窮が脳体積の減少、困窮と心的外傷の両方が脳血流の減少に影響していました。
上記のように、社会経済的な要因も、心的外傷も、それぞれの影響について特徴がありますが、精神症状だけではなく、認知的な能力、脳の構造や機能的変化を来すことが分かります。
精神疾患を理解するためには、より広い視点から関わることが大切であることを再認識しました。