アルコール依存症(他の物質障害についても)に関しては、薬物療法や多くの心理療法の有効性が低いことが知られています。
実際に多くの精神科医が、この疾患について(多くの場合)治りにくい、あるいは治療期間が非常に長期に及ぶイメージを持っていると思います(同時に「回復」は可能ということも多いので一概には言えません)。
「動機づけ強化療法(MET)」は、その中ではアルコール依存症に比較的有効な心理療法として知られていますが、実際には単独で大きな成果を上げるに至っていない現状があります。
また、ケタミンという薬剤は、麻酔薬として分類されますが、少しの量では他の麻酔薬に比較して呼吸を抑制しにくい大きな利点を持っています。
今回は上記のMETにケタミン注射を追加することによって、効果の向上に役立つかもしれないという内容の研究について說明させてください。
アルコール依存症の診断を満たす40人(平均53歳)が対象となりました。
5週間の動機づけ強化療法プログラムの第2週目にケタミン注射を行うグループと比較対照として麻酔導入剤であるミダゾラム注射を行うグループとに分けて効果が比較されました。
結果として、ケタミン注射を行ったグループでは、禁酒の維持、再飲酒までの時間延長、大量飲酒の日数減少が認められ、明らかな差が生じていました。
いくら呼吸抑制が少ないといっても、通常の精神科(心療内科)クリニックで麻酔薬を投与してすぐに帰宅してもらうのは困難と思われます。
しかし、1回の注射で大きく心理療法の効果に違いをもたらすならば、他の有効な治療法が少ない領域での選択肢として検討されるべきかもしれません。