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『在宅医療バイブル』 川越正平編著


精神科として訪問を行うときでも、内科やその他の身体的治療を求められることが多くあります。そんな時、「できません」と全て断ることも、自分の能力を超えた症状について治療(と自分が判断した内容)を行うことも患者さんにとって大きな不利益につながります。自分で扱える部分を知り患者さんの利益になる範囲で適切な医療を提供するために、一般的な在宅医療に関する知識が欠かせません。この本は在宅領域全体の知識を得たいという要求に応えてくれる本でした。

「在宅医療」というのが、最近の医療制度を語る時にはキーワードではあります。ごく大雑把に言えば「入院ベッド数を削減し、在宅でできる限り治療する」というのが、基本的な方針であるわけです。そのまま他の科の原則があてはまるわけではないのですが、精神科(心療内科)でも入院期間を短縮しないと病院経営が成り立ちにくい仕組みづくりが徐々になされつつあります。

私が経験した都市部では、精神科においても在宅医療の対象者が地方よりずっと広くとらえられており、きっとこの傾向が徐々に地方に拡大してくることが考えられます。

今まで、在宅で治療を行うために病院とは異なる知識や技術が必要であるという認識が広まっていないためか、在宅医療の知識の集成に真正面から取り組んだ本は少なかったように思います。

この本は、在宅医療を行うにあたって現時点で最低限身につけておくべき知識が秩序だってまとめられており、非常に有益です。最低限といっても600ページ程度あるので、最後までしっかり読むためには、かなりの時間が必要です。

全体は「家庭医療学」、「老年医学」、「緩和医療学」と別れているのですが、まずは自分に必要なところ(在宅をやっていて疑問に思ったところ等)を拾い読みされると良いのではないかと思います。しかし、辞書的に使って食い残しが生じるのには、あまりにも惜しいすぐに実践に役立つ具体的な知見がつまっています。

私が在宅医療に初めて接し、病院でやってることを家や施設でやれば良いというわけには全くいかなくて困っていた頃、在宅医療独特の技術や考え方、制度などに関する知識をまとめたデパート的な本を探していました。

この本はたくさんの質の良い専門店が「在宅医療の成功=患者さんの利益」という目的のもとに結集した統合性の高いデパートであると言えます。

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