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うつ病と脳の変化


一つの疾患に対する研究は様々な面から行われます。

例えば、心理検査の結果を分析したり、ホルモン濃度を測定したり、細胞レベルでの変化や遺伝子の内容を調べたりする等、色々な方法があります。そして、それぞれの手法に神経心理学、内分泌学、細胞生物学、分子生物学等の異なった学問分野が関わることになります。

うつ病についてもそれは同様で、それぞれの学問的立場から病気の原因や治療法が研究されています。

今回ご紹介するのは画像を用いた解剖学的評価と神経心理学的検査の結果を結びつけた研究です。

海馬の体積減少はうつ病の遂行機能障害と関連している

J Psychiatry Neurosci 2006; 31(5): 316-25

今回注目されている脳の海馬(かいば)という部分は情動の調整を行っている神経回路の一部で、大脳皮質の前頭前野、視床前核、扁桃体等へ神経を伸ばしています。そして、様々な精神疾患で注目されてきた場所でもあります。

特に認知症の診察では、医師が「ここの海馬というところが痩せています」と脳の内側を指さして説明するところを見た人がいるかも知れません。

認知症以外でも統合失調症、PTSD、うつ病で体積の減少が指摘されています。

この研究では、この海馬の体積とうつ病の症状の一つである遂行機能障害の関連を調べています。

結果の主な点は以下のようでした。

①うつ病では海馬と前頭葉の体積が健常者に比べて大きく減少していた。

②さらに、海馬の体積減少は遂行機能障害を測定するウィスコンシンカードソーティングテスト(WCST)の成績低下と関連していた。

そして、これまでに海馬の減少を伴うつ病は臨床的により重度であることが示されています。

しかし、誤解の生じないようにお伝えしておきたいのは、脳の体積減少が起きているからといって、治療効果がないわけではないことです。少なくとも、抗うつ薬による薬物療法は、ストレスによる毒性を軽減し、海馬の神経生成を促すことが知られています。また、構造的変化までは明らかではありませんが、認知行動療法等の心理療法により脳の代謝増加が起きること(働きが良くなること)がPET等の画像検査で確認されています。

以上のようなことから、この論文では、海馬の体積減少のような証拠を手掛かりにして、遂行能力の低下と臨床的な重症度を予測し、より効果的な治療戦略の立案につなげるよう提言しています。

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