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『聖の青春』 大崎善生著


なぜか将棋もろくにさせないのに棋士の考え方や生き方に興味があります。

盤上の勝負にかける集中の度合いというか、純粋さにどうしようもなく魅かれてしまいます。

今回ご紹介する本は、幼少よりネフローゼ症候群という腎疾患を患い、病気と闘いながら修業してプロの棋士としてデビューした後に癌で夭折した村山聖(むらやまさとし)さんの記録です。

テレビでも何度かドキュメンタリーが放送されたので、腎疾患の方に特有のぼってりとした顔貌に見覚えのある方がいるかもしれません。

この本の中には様々な闘いが描かれています。病気との闘い、将棋との闘い、そして人間との闘い……。

将棋に対する複雑な気持ちが本人の「名人になって早く将棋を辞めたい」という言葉にも表れているような気がして、ちょっとつらくなるところもあります。好きだから、将棋指しになったわけではなく、たった一つのできること、この世と自分との唯一の命綱だったから、それと闘い続けるしかなかった、そういうしんどさを感じます。

でも、全てのしんどさ、報われないことへの苛立ち、やり切れなさを貫いているのは、師匠の森との関係を中心とする“人の情け”であるような気がします。

最後に、師匠の森が村山聖の主治医に相談する場面を抜粋させてください。

「森は住友病院にいき、村山の主治医に相談を持ちかけた。なんとか1日だけ、対局をさせてやってくれないかというものだった。そうしなければ、村山の立場は危ういものになってしまう。村山にっとては命を断たれたのと同じことになるだろう。もちろん腎臓が大事で、安静がいちばんなのはわかる、しかしいまのあの子にとって自分の肉体よりも大切なものがある。将棋という何ものにもかえらえない翼。もしそれをもがれれば、村山はもうどこにもいけなくなるし、どんな夢も見られなくなる。それがこの子にとってのおそらくは最大のそして唯一の致命傷なのだ。」

唯一のものにすがる人間とそれをささえる人間。少し痛みが残りますが、清々しい印象のある本です。

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