精神症状のうち気分の落ち込みや不眠、幻覚や妄想等に比べると、少しマイナーなもののうちの一つに「離人症(感) depersonalization」という症状があります。
定番の精神医学教科書 Kaplan and Sadock's Synopsis of Psychiatry 11th Editionによると
「身体存在に関する変動する感覚で、自分の体の外にいるような感覚、人々から切り離されているような感覚、浮遊感、夢の中でのように遠くから自分自身を観察しているような感覚を含む」
自分を自分の体から切り離す?
……それを感覚上だけで可能にしてしまう症状といえます。
イメージ的にはなんとなく幻想的な雰囲気をまとっている症状ですが、これが執拗に続くことは、自分が自分である感覚や生きている感覚の減弱につながり、日常生活全般がやりづらくなってきます。
通常の感情障害等には伴うことの少ない症状で、私が経験した例の大半が都市部のクリニックで担当した患者さんです。
印象では、辛い目にあった患者さんが、そうやって少し荷物を軽くしているような感じを受けることが多いです。それ自体も気持ち悪い症状ではあるのですが、そうでもしなければ自分が存在していることを受け止められないというような感じなのです。
身体を含めた自己の存続と感覚の正常(自己一致)とを天秤にかけたとき、ぎりぎりの選択で前者が選ばれるしくみが、離人症の根っこにあるような気がします。(この点に関しては様々な本の中の「解離」の項目で、類似の説明がより洗練されたかたちでなされていることが多いです。)
明日は、もう少し稀有な症状の解説を続けさせてください。