〒790-0005 愛媛県松山市花園町4-12
和光ビル2F 
TEL:(089)997-7670 FAX 997-7671
Copyright © もりさわメンタルクリニック  All rights reserved.
 

脳内の神経接続のパターンと精神症状の予測について

様々な方法で、特定の病気になり易い傾向が少しずつ前もって分かるようになってきています。 その一つに最近、一般にも販売されている遺伝子診断のキットなどがありますが、確かに~(病名)になり易いということが分かっていたら、生活習慣について気をつける等の対策を講じることができて、焦点を絞った健康対策ができるかもしれません。 今回は児童期の神経接続のパターンを調べることでその後の症状変化の予測を行えないか調べた研究についてご紹介します。 Association of Intrinsic Brain Architecture With Changes in Attentional and Mood Symptoms During Development 発達期における脳の内的構造と注意・気分の症状変化との関連 研究のスタート時点では7歳の、94人の子どもたちが調査の対象となり、4年後にもう一度精神症状の変化について調べられました。 7歳のときには、安静時の脳の働きに関して、機能的MRIと呼ばれる検査を施行しました。 以下のことが示されました。 ①内側前頭前野と背外側前頭前野の連絡が弱いほど、注意欠陥症状の予後が良い ②前帯状皮質膝下部と背外側前頭前野の連絡が弱いほど、うつや不安の予後が悪い 上記のような脳の神経接続のパターンが発達早期に認められたときには、その後の精神症状の予測が立ちやすいと言えます。 ①に関して「今の注意欠陥症状は落ち着いてくる可能性が高いです」と言えることや、②について「今後、うつや不安の症状に注意が必要ですので、休養を重視してコンディションの調整に努めましょう」等と指

認知行動療法による脳の反応改善について

パニック障害に対して、(日本では薬物療法が主流ですが)認知行動療法による治療がなされることがあり、頭の中に浮かぶ言葉に対する反応が改善されると言われています。 今回は、パニック障害で起こっている脳の反応を確かめ、認知行動療法がそれをどのように変えるのかを調べた研究をご紹介します。 Effect of CBT on Biased Semantic Network in Panic Disorder: A Multicenter fMRI Study Using Semantic Priming パニック障害で変化を来した言語処理に対する認知行動療法の効果 パニック障害に罹患した118人について、認知行動療法を行っていない状態で、言葉に対する反応を機能的MRIと呼ばれる画像検査で調べました。 また、認知行動療法を行った42人についても、同様の検査を行い、脳の反応の違いを分析しました。 まず、パニック障害ではパニック症状のきっかけとなる言葉(論文中では“エレベーター”)に対する脳の反応が通常より迅速に起こり、特に前帯状皮質という部位の活動抑制が生じていました。 そして、認知行動療法を施行した後には、このような障害による変化が軽減し、同じようなきっかけとなる言葉を聞いても、脳の反応は少なくなっていました。 上記のように、認知行動療法によるパニック障害への効果が、客観的に示されましたが、今回分かった症状軽減のしくみを参考に、より有効な治療法の可能性(言葉やイメージへの介入を意識して行う等)が広がるように思われました。 #認知行動療法 #パニック障害

抗精神病薬の用量による効果の違いについて

薬剤は(認められている用量の範囲で)多く使用すれば、その分良く効いてくれるはず……そのように考えて薬の量が増やされる場合が多いと思います。 しかし、案外この 多い使用量→強い効果 というのは明らかになっていない場合もあり、また、本当はどの程度使用したら十分なのかについても強い根拠が存在するわけではないことがあり得ます。 今回は、治療を行う上では非常に重要なはずなのに、知識があいまいなままになっている使用量と効果との関連について、多くの論文を分析して信頼性の高い証拠を見出そうとする“メタアナリシス”をご紹介します。 Dose-Response Meta-Analysis of Antipsychotic Drugs for Acute Schizophrenia 急性期統合失調症の治療における抗精神病薬の用量と効果の関係 基準を満たした68の論文が分析に含まれました。 日本でもよく使用される抗精神病薬について、95%有効量(人口の95%に十分な効果を発揮すると考えられる用量)/リスペリドン(日本でもよく使われる標準的な抗精神病薬)1mgと同等の効果を発揮すると考えられる用量の順に示すと以下のようになりました。 リスペリドン6.3mg/1mg、アリピプラゾール11.5mg/1.8mg、オランザピン15.2mg/2.4mg、クエチアピン482mg/77mg 概ね有効な用量が現在認められている服用量の中におさまっていますが、今回分析の対象となった抗精神病薬の中には(許容されている使用量の中で)効果が平衡に達していないものも存在し、もっと用量を増やしたところが適切な使用量である可能性もあ

脳動脈硬化とアルツハイマー病の原因物質の関係

#アルツハイマー病 三大認知症と言えば、①アルツハイマー病(β‐アミロイド等の沈着物質と関連)②血管性認知症(脳動脈硬化と関連)③レビー小体型認知症 のことを意味します。 ①と②の原因として考えられている脳動脈硬化とβ‐アミロイドの沈着は、実はどこかでつながっているのではないかという考えがあるのですが、今回はこの説を確かめようという趣旨の研究をご紹介します。 Association of Intracranial Atherosclerotic Disease With Brain β-Amyloid Deposition Secondary Analysis of the ARIC Study 脳動脈硬化関連疾患と脳内β‐アミロイド沈着との関係 70歳から90歳の認知能力低下のない300人(平均年齢76歳)が対象となりました。 動脈硬化関連疾患のリスク(プラークの存在や閉塞の程度等)と脳の機能画像を用いたβ‐アミロイド沈着の評価が行われました。 結果として、動脈硬化の様々なリスク、動脈閉塞の程度の両方とも、β‐アミロイド沈着とは明らかな関連がありませんでした。 それまで別の疾患と考えられていたものが同一のしくみによって生じていることはあり得ますが、少なくとも今回確かめられたレベルにおいては、脳動脈硬化とβ‐アミロイド沈着の関連ははっきりしませんでした。 今後も、認知症の仕組みをより深く理解できるように、現在の疾患の考え方にとらわれずに、情報や現象を正しくとらえるようにしたいと思いました。

アルコール多飲→脳の萎縮 or 脳の萎縮→アルコール多飲

#アルコール依存 アルコールの乱用がある方の認知能力低下について“アルコール性認知症”という言葉が使われることがあります。 確かに「アルコールを多量に飲んでいると脳に悪い」というイメージと一致する言葉ではありますが、本当にアルコールには直接的に脳の機能低下をきたすような作用があるのでしょうか? 今日は、思春期からの長期に渡る経過でアルコール摂取、脳萎縮、パーソナリティとの関連を調べた研究をご紹介します。 Association of Gray Matter and Personality Development With Increased Drunkenness Frequency During Adolescence 思春期の酩酊頻度と灰白質・パーソナリティ変化の関連 平均14.4歳の726人(女性48%)が調査の対象となりました。 14・16・19歳時の酩酊頻度とパーソナリティの経過、14・16歳時の脳の構造的変化をみるためのMRI検査が行われました。 まず、アルコールによる酩酊の頻度と脳の萎縮とは確かに関連していましたが、関係性としては、従来から言われていた①アルコール多飲→脳の萎縮 という関係よりは、②脳の萎縮→アルコール多飲 という関係の方がより強いことが分かりました。 また、パーソナリティとしては“衝動性 impulsivity”とアルコール多飲との関連が深いことが分かりました。 上記の結果からは、“アルコールをたくさん飲むと体に悪い。だから脳も痩せて来るはずだ”という考えは必ずしも成り立っていないようです。 イメージから導かれる図式を鵜呑みにせずに、“アルコール

長時間の睡眠は脳卒中のリスクを高めるのか?

適切な睡眠時間は何時間なのか質問を受けることがあります。 7時間~8時間の睡眠とお答えすることが多いのですが、実際には個人の体質や年代・ライフスタイルによって大きく異なり、一概に答えづらいところがあります。 今回は、長時間眠ったり、昼寝をすることが梗塞などの脳卒中リスクにつながるかもしれないという内容の論文をご紹介します。 Sleep duration, midday napping, and sleep quality and incident stroke The Dongfeng-Tongji cohort 睡眠時間、昼寝、睡眠の質と脳卒中 開始した時点で平均61.7歳の31,750人が調査の対象となりました。 以下のような結果が示されました。 ①9時間以上の睡眠は7~8時間の睡眠と比べたとき、脳卒中のリスクが1.23倍となる。(それに対して短時間の睡眠ではそのようなリスクの上昇は認めませんでした) ②90分以上の昼寝は30分以下の昼寝と比べたとき、脳卒中のリスクが1.25倍となる。 ③睡眠の質が悪いときには、卒中のタイプによって異なるが30%~50%程度のリスク上昇がある。 その他にも、組み合わせとして9時間以上の睡眠と90分以上の昼寝で1.85倍、9時間以上の睡眠と質の悪化で1.82倍のリスク上昇を認めていました。 しっかりと休養をとることは重要ですが、睡眠の過剰・不規則・質の悪化は脳卒中という観点からはリスクとなるようです。 うつの治療を行う上では、長くねむれることが良いことであるとすすめることが多いのですが、長期的な習慣に関しては9時間以上の長時間睡眠をすすめない

認知症に対する包括的ケアの効果

以前から、複数の医療機関や介護等のサービス提供機関と地域に根付いた組織を結びつけて認知症のケアを行う“包括的ケアシステム”の必要性が説かれています。 今回は、特にそのような“包括的ケア”の中でも、電子カルテの共有によるニーズ把握/状態評価やきめ細やかな個別の支援計画等を含むモデル的プログラムで、どのように患者さんや介護者の状態が変化し、臨床経過に影響するのか調べた研究をご紹介します。 Patient and Caregiver Benefit From a Comprehensive Dementia Care Program: 1‐Year Results From the UCLA Alzheimer's and Dementia Care Program 包括的認知症ケアプログラムによる患者と介護者の利益 認知症に罹患した554人とその介護者が調査の対象となり、プログラム開始前と1年後の変化を調べました。 患者本人については Mini‐Mental State Examination (MMSE)といった認知機能や日常生活動作等に関する指標、介護者についてはModified Caregiver Strain Index(修正版介護者負担指標)等が用いられました。 “包括的ケアプログラム”を開始した1年後において、患者本人については純粋に認知や機能的評価を行うMMSE等以外でのスケールでは改善を示し、介護者については全ての指標で明らかな改善を示していました。 多くの指標を合わせて総合的に評価した臨床的結果については、患者の314/543 (58%)、介護者の282/447

乳児期の抗生剤投与とADHDの関連

抗生剤の投与は腸内細菌叢の分布を乱し、消化管症状のみではなく、様々な症状を引き起こすと言われています。 特に最近、注目されているのは腸内細菌叢の精神症状との関わりで、うつ症状や精神病症状との関連について研究されています。 今回は、生後1年間の抗生剤投与とその後のADHDの発症についての関連を調べた論文をご紹介します。 Antibiotic Exposure in the First Year of Life and the Risk of Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder: A Population-Based Cohort Study 生後1年における抗生剤投与と注意欠陥多動性障害(ADHD)のリスクについて カナダにおける研究で他の特徴を一致させた集団と兄弟姉妹を含む集団を合わせて約140,000人が調査の対象となりました。 抗生剤投与は、生後1年間で1種類以上の処方がなされたかどうかで定義されました。 結果として以下のことが示されました。 ①比較対照の種類によらず生後1年間の抗生剤投与とADHD発症のリスクは関連していない。 ②抗生剤の4種、3週間以上の投与については、他の特徴を一致させた集団についてのみ、ADHD発症のリスク増加を認めた。 上記のように、稀なケースでのみADHD発症リスクの増加の可能性が示唆されましたが、一般的には生後1年間の抗生剤投与について警戒する必要はなさそうです。 ADHDについては特に生育中に避けなければならない物質や栄養についてのさまざまな情報がありますが、冷静に受け止め、正確な知識を患者さんに

肥満・脳の構造変化・知能低下との関連

以前から肥満と知的機能低下との関連については示唆されてきました。 しかし、実際の脳の構造的変化や知的機能とのはっきりとした関連性については分からない状態です。 今回は肥満の程度を示すBMIと呼ばれる指標と脳の皮質厚、知的機能を示すテストの成績に関して調べた研究をご紹介します。 Associations Among Body Mass Index, Cortical Thickness, and Executive Function in Children 体格を示す指数(BMI)と脳の皮質厚、遂行機能の関連 まず、3190人の平均10.0歳の子どもたちにおいて高いBMIを示す場合、脳の皮質厚が薄い傾向がありました。 また、18の領域について脳の皮質の厚さを調べたところ、特に前頭前野と呼ばれる部分での皮質厚が薄くなっていました。 そして、様々な知的機能(中でも遂行機能)を調べるための検査を行ったところ、特にワーキングメモリという能力に関係するList Sorting Testで、脳の皮質厚にBMIと脳の皮質厚に関連する成績低下を認めました。 ワーキングメモリは作動記憶とも呼ばれ、日常生活の中で様々な活動を支えるごく短期の記憶(時々刻々の対応に使われる記憶)を意味します。 肥満と脳の構造変化、遂行機能との関連がどのようなしくみで生じるのかまでは分かりませんが、子どもの肥満について単に身体的問題としてではない視点で経過をみる必要性を感じました。 #肥満

統合失調症のメタ認知と脳構造について

大まかに言って、自己の認知についてさらにそれを認知することを“メタ認知”と呼びますが、つまり自分の精神活動に関する広い意味での“自覚”にあたる言葉であるように思われます。 この“メタ認知”が、統合失調症の予後を考える上でとても大切ではないかと言われておりますが、あまり客観的データが豊富ではないのが現状です。 今回は、統合失調症の初回入院のエピソードに絞って、メタ認知の様々な指標や画像検査を用いて、客観的データの基礎を得ようとした研究をご紹介します。 Brain Structural Correlates of Metacognition in First-Episode Psychosis 脳の構造変化は精神病による初回入院時のメタ認知と関連している 初回入院時のベック認知洞察スケール:Beck Cognitive Insight Scaleを含むメタ認知の指標と脳の部位ごとの構造を調べるためにMRI検査が行われました。 結果として初回入院時の統合失調症では明らかにメタ認知の正確性が低下しており、前頭葉や脳弓下部の萎縮を認めました。 また、特にメタ認知との関連の深い傾向として海馬における脳の“整合性”integrity の低下が示されました。 メタ認知にどのような基礎があり、脳の構造に変化を与えていることが分かると、より治療目標が明確となり、今後の治療に発展する可能性があると思われました。 #メタ認知 #統合失調症

ボードゲームで遊ぶと認知症を防ぐことができる?

以前に高齢になってからコンピュータゲームで遊ぶことが認知能力低下の進行を防ぐことができるという内容について紹介したことがありました。 今回は11歳から70歳までの非常に長期の観察期間において、ボードゲーム等のアナログゲームで遊ぶことが、どのように認知能力に影響するか調べた論文をご紹介します。 Playing Analog Games Is Associated With Reduced Declines in Cognitive Function: A 68-Year Longitudinal Cohort Study アナログゲームで遊ぶことが認知能力低下を防ぐ スコットランドにおける研究で、特に疾患のない同年に生まれた1091人が調査の対象となりました。 研究のスタート時点では11歳、最終的には79歳までのアナログゲームを行う頻度と認知機能が調べられました。 結果をみると、以下のようになっていました。 ①11歳から70歳まででアナログゲームをやる頻度が高い方が、70歳における認知機能が高い。 ②70歳から79歳において、同様にゲームをやっていた方が認知機能の低下が少ない。 特に、認知能力の中でも記憶の領域で上記の傾向は顕著でした。 認知機能の低下を防ぐためにできることとして、ボードゲームを主にすすめるのは、好みもあると思うので少しためらわれます。 しかし、同じようなレベルで脳を使う様々な活動が望ましいと広く解釈し、患者さんにすすめたいと思いました。 #認知症

マインドフルネスで血圧は下がるのか?

瞑想などの実践を通して今この瞬間に意識を向ける方法をマインドフルネスと言い、現在うつや不安等の精神的な症状だけではなく、がんの疼痛等の身体的症状にも適応が広がっているやり方です。 今回はストレスの要因も大きな影響を与えるといわれる高血圧症の治療に、マインドフルネスが有効かを調べた研究をご紹介します。 Mindfulness-Based Blood Pressure Reduction (MB-BP): Stage 1 single-arm clinical trial 48人がこの調査に登録され、43人が10回のマインドフルネスセッションのうち7回以上を終えました。 結果として、1年経過したフォローアップで収縮期血圧で平均6.1mmHgの低下を維持しており、最も効果が顕著な例では15.1mmHgの降圧を認めました。 一般的なマインドフルネスではハードルが高い場合もあるかもしれませんが、今回の場合は高血圧治療に的を絞って、在宅で行えるかたちを採っており、脱落も比較的少なかったよう思われます。 今後も効果の大きい非薬物的治療の選択肢が広がると、薬物に抵抗感のある方や薬の効きにくい方に対する大きなメリットになると思われました。 #高血圧症 #マインドフルネス

アルツハイマー病に希望(タウ蛋白阻害薬の効果)

多数登場しては消えていく印象のあるアルツハイマー型認知症の治療薬ですが、今度の薬剤は少し希望が持てるかもしれません。 hydromethylthionine(ハイドロメチルメチオニン)という物質で、アルツハイマー病で沈着するタウタンパク質を阻害する働きがあります。 今回ご紹介するのは薬剤の試験のうち第3相という段階に関する論文です。 Concentration-Dependent Activity of Hydromethylthionine on Cognitive Decline and Brain Atrophy in Mild to Moderate Alzheimer’s Disease 軽度から中等度のアルツハイマー病に対するハイドロメチルメチオニンの濃度依存性 軽度から中等度のアルツハイマー病に罹患している1,162人がこの試験に参加しました。 今回調べたのは1日あたり8mgという用量と、150mgまたは200mg使用した時で効果に違いがあるのかという点です。 通常なら、これだけ質量に大きな差があれば何らかの違いが期待されますが、今回得られた結果では、用量による違いは認めず、用量の大小に関わらず認知機能の低下や脳の萎縮の程度を明らかに軽減していました。 薬剤の効果として早くに定常状態となる特徴を持っているハイドロメチルメチオニンですが、現在までのところ有効である点に変わりはないので、患者さんの大きな利益につながることを期待して認可されるのを待ちたいと思います。 #アルツハイマー型認知症 #アルツハイマー病

コンピューターによる検査で麻薬使用のリスクが分かる?

物質依存には通常、再使用の可能性が高まると考えられている臨床上の指標(現在の不安、物質への渇望、離脱症状、不遵守の傾向)があります。 しかし、これらの指標を考慮しながら、治療方針上の工夫を行った場合でも、再使用の頻度は高く、物質の離脱を図った後の再使用の頻度は非常に高くなっています。 コンピュータ上で行った意思決定の特徴と麻薬の仕様に関する傾向に関連性があるか調べた研究をご紹介します。 Computational Markers of Risky Decision-making for Identification of Temporal Windows of Vulnerability to Opioid Use in a Real-world Clinical Setting 麻薬依存に罹患した70人(平均44.7歳)の患者さんと50人の比較対照として健常者(平均42.4歳)について調査されました。 7ヶ月までの治療期間中、毎回のセッションで危険に対する意思決定に関するコンピュータ上のテスト受けてもらい、これによって得られる所見が、麻薬の再使用に関する予測を行う上で有用か調べられました。 結果をみると、コンピュータによるテストで得られた所見のうち、“不明確さに対する忍耐”を示す指標だけが大きく物質再使用と関わっていました。 つまり、漠然とした危険に対する耐性が高く、リスクをとる意思決定を行う傾向が高まる時期には物質再使用の危険性も高くなるということを意味します。 このようなテスト上の指標から現在の再使用リスクを把握し、依存症治療に関する方針を検討できると、時間経過とともに変

統合失調症の長期的な認知機能の変化

統合失調症を主とする精神病性の疾患について、認知機能が長い間でどのように変化するか、はっきりしていません。 今回は、最初の入院の数十年後まで、どのように認知機能が変化するか健常者と比較して調べた研究をご紹介します。 Long-term Changes in Cognitive Functioning in Individuals With Psychotic Disorders Findings From the Suffolk County Mental Health Project 精神病性の障害に罹患し最初の入院を経験した場合と健常者を含む705人が調査の対象となりました。 認知機能の6つの領域(言語的知識、言語的記憶、視覚的記憶、注意と処理速度、抽象的遂行機能、言語的流暢性)について、最初の入院から2年後、20年後について機能の変化を調べました。 結果、上記のうち2つの領域を除く大部分で健常者よりも早く認知機能の低下が出現することが分かりました。 症状に関していうと、陰性症状(統合失調症の症状のうち、無為自閉や意欲低下等の活動性低下に結びつく症状)が悪化すると、より大きく認知機能が低下している傾向がありました。 上記の結果をみると、精神病性の疾患で入院した場合、退院後の短期的な精神症状の安定化のみではなく、活動性を向上させる等の長期的に認知機能低下を防ぐ方針が必要であると思われました。 #統合失調症

ケタミン注射はアルコール依存症に有効か?

アルコール依存症(他の物質障害についても)に関しては、薬物療法や多くの心理療法の有効性が低いことが知られています。 実際に多くの精神科医が、この疾患について(多くの場合)治りにくい、あるいは治療期間が非常に長期に及ぶイメージを持っていると思います(同時に「回復」は可能ということも多いので一概には言えません)。 「動機づけ強化療法(MET)」は、その中ではアルコール依存症に比較的有効な心理療法として知られていますが、実際には単独で大きな成果を上げるに至っていない現状があります。 また、ケタミンという薬剤は、麻酔薬として分類されますが、少しの量では他の麻酔薬に比較して呼吸を抑制しにくい大きな利点を持っています。 今回は上記のMETにケタミン注射を追加することによって、効果の向上に役立つかもしれないという内容の研究について說明させてください。 A Single Ketamine Infusion Combined With Motivational Enhancement Therapy for Alcohol Use Disorder: A Randomized Midazolam-Controlled Pilot Trial アルコール依存症の診断を満たす40人(平均53歳)が対象となりました。 5週間の動機づけ強化療法プログラムの第2週目にケタミン注射を行うグループと比較対照として麻酔導入剤であるミダゾラム注射を行うグループとに分けて効果が比較されました。 結果として、ケタミン注射を行ったグループでは、禁酒の維持、再飲酒までの時間延長、大量飲酒の日数減少が認められ、明らかな差が

自閉症スペクトラム障害にうつや不安が合併する割合について

以前から自閉症スペクトラム障害にはうつや不安が合併しやすいことが指摘されていますが、実際にどのくらいの割合で生じるのか、詳しいところがはっきりしていません。 今回は、自閉症スペクトラム障害におけるうつ病、病的な不安、双極性障害に関して、一般人口と比較してどのくらい発症リスクが異なるのか調べた大規模な研究についてご紹介します。 Association of Comorbid Mood and Anxiety Disorders With Autism Spectrum Disorder 1976年から2000年にミネソタのオルステッド郡で生まれた31220人が調査の対象となりました。 このうち、1014人がASD(自閉症スペクトラム障害)が診断を満たし、他の条件をそろえた健常者との間で発症リスクについての比較を行いました。 結果として、双極性障害9.34倍、うつ病2.81倍、不安障害3.45倍で発症リスクが高いことが示されました。 30年間の累積罹患率を比較してみると双極性障害に関して自閉症スペクトラム障害 vs 健常群は7.3% vs 0.9%、うつ病に関して54.1% vs 28.9%、不安障害に関して50.0% vs 22.2%となっていました。 気分や不安の障害が増えるという印象は強かったものの、これだけ大きな差があるとは明確に意識できていなかったように思います。 特に双極性障害については、非常に大きな罹患率の差を前提として、治療の方針を検討する必要があると考えました。 #自閉症スペクトラム障害

エンドフェノタイプを用いて考える統合失調症の関連遺伝子

遺伝子と疾患との関連を考える時に、遺伝子の変異等の特徴と疾患の有無のみとの関連を調べても、有益な結果が得られないことがあります。 このとき、疾患の有無よりも前の段階である神経機能や代謝の異常を考えると遺伝子的特徴との関連が分かることがあります。 このような遺伝子と疾患との中間に位置する特徴を、エンドフェノタイプ(endophenotyoe)と言い、疾患の発症だけではすくい取れない遺伝子の発現をみる上で有用とされています。 今回は様々なエンドフェノタイプを想定して統合失調症の関連遺伝子(その可能性が高いもの)について調べた研究です。 Genome-wide Association of Endophenotypes for Schizophrenia From the Consortium on the Genetics of Schizophrenia (COGS) Study 統合失調症のエンドフェノタイプからみたゲノム全体における関連性について 1533人(861人が男性、平均41.8歳)のサンプルが分析の対象となりました。 通常の遺伝的解析において、疾患との関連性が高いと思われた7つの領域について、エンドフェノタイプとして想定された特徴との関連が調べられました。 もう少し具体的には抑制・注意・警戒・学習・ワーキングメモリー・遂行機能・エピソード記憶・社会的認知に関連する11の特徴が評価されました。 結果として、調べた遺伝子の7つの領域は、エンドフェノタイプ(中間的な特徴)との関連も大きく、統合失調症の背景にある機能上の問題と密接に関連していることが考えられました。 以上の

好んだ治療を受けることは低い脱落率と治療効果につながるか?

患者さんが治療の選択肢を示された上で、好みの治療を受けることは少なくとも治療からの脱落を少なくすると思われます。 このイメージは実際に先行する研究で確かめられていますが、今回は特に心理社会的介入についての同様の結果が得られるのか、また治療上の良い結果に結びつくのかを調べた研究について説明させてください。 Association of Patient Treatment Preference With Dropout and Clinical Outcomes in Adult Psychosocial Mental Health Interventions A Systematic Review and Meta-analysis 多数の文献を分析・統合し、信頼性の高い結果を得ようとする手法(メタアナリシス)で、5294人の参加者を含む29の研究(ランダム化比較試験)が分析の対象となりました。 患者が好む治療を受けたグループと、好まない治療を受けたか、そもそも選択肢自体を示されなかったグループとに分けて、出席・脱落・治療上の信頼関係・うつと不安の尺度・機能評価・満足度・寛解率について比較がなされました。 結果として ①患者の好む治療を受けたグループが、心理社会的介入についても脱落率が低かった。 ②治療による効果については2つのグループの差が明らかではなかった。 つまり、心理社会的介入について、患者の好む治療を行うことは、少なくとも脱落を少なくすることにはつながる。しかし、必ずしも治療の結果を改善しない、ということになります。 治療の成績のみを考えると、患者さんの好みに左右され

認知行動療法の併用や薬の継続はうつ病の再燃を防ぐのに有効か?

統合失調症については、初回で短期のエピソード以外では抗精神病薬の服用をできるだけ長期間続けること(生涯にわたることも)がすすめられます。 しかし、うつ病においては、(様々なケースは考えられますが)うつの症状が軽快した後は薬剤を中止することが検討される場合がまだ多いと思われます。 今回、ご紹介するのは薬剤を継続した場合とそうでない場合とでの再発率の違いと、最初の寛解の時に認知行動療法をしていた場合とそうでない場合とでも違いがあるのか調べた研究です。 Prevention of Recurrence After Recovery From a Major Depressive Episode With Antidepressant Medication Alone or in Combination With Cognitive Behavioral Therapy A Phase 2 Randomized Clinical Trial 治療時の認知行動療法の有無とうつ病寛解後の再発予防 うつ病と診断され寛解に至った292人(平均45.1)が調査の対象となりました。 この研究は主に2つの問いに答えることが目的であると考えられます。 ①うつ病が寛解した後にも薬剤を続けたかどうかで、再発率に違いがあるか? ②認知行動療法を寛解までの治療に行ったかどうかで、再発率が異なるか? つまり、認知行動療法に継続的な再発予防までの効果があるのか? 結果として、まず①については明らかに、薬剤を継続していたほうが再発リスクが低下することが示されました(約75%⇒48%)。 しかし、②に関しては明らか