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『精神科のくすりを語ろう』 熊木徹夫著


このシリーズは複数あり、今回は「患者からみた官能的評価ハンドブック」という副題のものを紹介させてください。

この本の著者の熊木先生は薬剤の「官能的評価」の重要性を説かれています。

この「官能的」という言葉ですが、広辞苑では「肉欲的な欲望をそそるさま。」とされており、ステッドマン医学大辞典では①身体と感覚に関連しているもので、知性もしくは精神からは区別される.②身体的または感覚的快楽を意味する.必ずしも性的なものに限らない. と説明されています。

ここで大切にされている「官能的評価」とは、本文全体を読んでみると「感覚を重視した評価」、あるいは「患者さんの感じ方を中心とした評価」という意味であると思われ、ステッドマンの方の説明に近いことが分かります。

そして、この「官能的」という部分が、この本の最大の特徴であり、もっとも役立つ点になっています。

例として、心療内科で最も処方されることの多い薬剤の一つである抗うつ薬の「パキシル」に関するある患者さんの体験を抜粋させてください。

「吐き気止めも出ていましたが、初日から吐き気がひどく、吐くことはなかったですが、1日中『うっ……』と繰り返していました。吐き気のために水も飲めなくなり、2週間で5Kgほどやせました。ふらふらで、一人で立っていられないほどでした。医者には『服むのをやめればいいのに』と言われ、相談した当日から服むのをやめました。」

これが医薬品の添付文書では

「 うつ病・うつ状態患者、パニック障害患者、強迫性障害患者及び社会不安障害患者を対象とした本邦での臨床試験において、総症例1424例中975例(68.5%)に臨床検査値異常を含む副作用が報告された。その主なものは、傾眠336例(23.6%)、嘔気268例(18.8%) ……」

となっており、同じ副作用の「嘔気」を表す内容としても、その質が大きく異なることが分かります。

全ての患者さんで同様の反応を見るわけではないので、このような「官能的評価」は取扱いに注意が必要だとは思います。

しかし、人間のこころを動かすのは、添付文書のような「客観的評価」ではなく、「官能的評価」のほうです。

実際、私はパキシルの「客観的評価」を知っているつもりでしたが、「官能的評価」を読んだ後、かなり処方に慎重になりました。

薬剤の評価を考えるときには、このような実感のこもった「官能的」内容も重視した上で、処方を行うべきだと思わせる本でした。

患者さんとしても、実際に薬を飲んだとき、どんな感じになるのだろう? という疑問に答えられる数少ない本だと思います。

しかし、他の方の「官能的評価」をそのまま自分に当てはまると信じるのではなく、是非内容については主治医と話し合い、この本の副作用が出ないようにして頂きたいとも思います。

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