今日は最初に抗精神病薬について、若干の説明をさせてください。
抗精神病薬は主として統合失調症に使われることが多いのですが、鎮静や気分安定、抗不安、睡眠導入・維持の作用などがあり、病気を限定せず広く用いられている薬剤でもあります。
統合失調症の主な精神症状を2つに分けると陽性症状(幻覚、妄想)と陰性症状(意欲低下、自閉)に大きく分かれますが、抗精神病薬の種類によって症状に対する効果が異なります。
非常に大まかではありますが、昔から精神病症状に使われている定型抗精神病薬(ていけいこうせいしんびょうやく)と、ここ20年ほどで治療の主役となった非定型抗精神病薬(ひていけいこうせいしんびょうやく)の特徴は以下のようになっています。
定型抗精神病薬:陽性症状への効果が中心で、錐体外路症状(体が硬くなったり、震えるなどの副作用)が出やすい。 例:セレネース(ハロペリドール)、コントミン(クロルプロマジン)、レボトミン(レボメプロマジン)など 非定型抗精神病薬:陰性症状への効果が比較的高く、錐体外路症状(上記)が少ない。 例:リスパダール(リスペリドン)、エビリファイ(アリピプラゾール)、ジプレキサ(オランザピン)、セロクエル(クエチアピン)など
※以上の薬剤で( )内は成分名です。
今日、論文中に登場するのは非定型抗精神病薬の中でも比較的新しいアリピプラゾールです。
アリピプラゾールは非定型抗精神病薬の中でも特徴的な、ドーパミンという神経伝達物質の働きを調整する効き目を持っております。
この薬剤に関して、別の抗精神病薬からの変更や追加で使ったときに、入院や自殺企図が増えるなどの現象が報告されていました。
今回の論文はこれらの報告をそのまま信じて良いのか、検証する内容になっています。
アリピプラゾールと精神科入院、自傷・自殺との関連
アリピプラゾールへの変更や追加を行った患者1643人と他の薬剤への変更・追加の場合とが比較されました。
結果として、入院や自傷・自殺に関してアリピプラゾールと他の薬剤の差異ははっきりしませんでした。
アリピプラゾール自体は他の抗精神病薬に比較して副作用も少ないと言われており、最近処方される場面が増えている薬剤です。
入院や自殺に関しても、今回の大規模なコホート研究と言われる手法では副作用を肯定する内容は出ませんでした。
今後も、慎重な対応は必要ですが、副作用について断定するのは尚早であると思われました。