EMDR(Eye Movement Desensitization and Reprocessing:眼球運動による脱感作と再処理法)は、PTSDをはじめとする精神的問題に対して有効な心理療法です。
心理療法とは言っても、外傷的体験を想起しながら眼球運動を行うことによる記憶(情報)処理の促進を目的としており、言語を用いたやりとりを中心とする通常のカウンセリングとは異なります。
今回はこのEMDRが幻聴による苦痛の軽減に有効ではないかという内容の論文をご紹介します。
36人の幻聴体験者が調査の対象となりました。そして、以下のグループに分けられました。
①視覚的な(眼球運動を用いた)通常のEMDRを行うグループ
②聴覚的な(数を数える聴覚的刺激を用いた)EMDRを行うグループ
③一点を見つめるだけの比較対照のためのグループ
EMDRでも敢えて②が準備されているのは、幻聴という聴覚刺激に対しては、聴覚刺激を用いたEMDRのほうが、通常のEMDRより有効ではないかという仮説に基づいています。
結果として、まず①、②ともに③の何もしないグループよりは、情動に対する幻聴の影響が軽減しており、方法としてのEMDRは幻聴の苦しみを軽減する作用があることが分かりました。
しかし、①と②の比較では明らかな差は見出されず、視覚を用いても、聴覚を用いてもEMDRの効果に大きな差がないことが示されました。
EMDRはまだ広く知られた存在とは言えない心理療法ですが、PTSDに対しては多くの有効である証拠が存在する治療法です。
適応疾患や適応症状の拡大により恩恵を受けられる患者さんが大きく増える可能性が考えられました。