他者の心の中にあるものについて考えられること、特に他者が自分とは異なった内容を信ずる場合があることに対する理解を“心の理論”と呼ぶ場合があります。
そして、“心の理論”が、社会性の発達において重要であるとされており、自閉症スペクトラム障害等の社会性の障害が目立つ発達障害においては、この「理論」の獲得が遅れることが知られています。
例えば、この“心の理論”が獲得されているか調べるための課題に「誤信念課題」と言われるものがあり、中でも有名なものに“サリーとアンの課題”というものがあります。
「サリーとアンが部屋で遊んでいて、サリーはボールを蓋付きのかごの中に入れて部屋を出ていきました。サリーがいない間に、残されたアンがボールを箱の中に移し、蓋を閉めました。サリーが戻って、ボールを探そうとしたとき、どこを探すでしょう?」
通常ならサリーが誤った信念を持つ可能性を考えて、「かごの中」と答えるところですが、“心の理論”の獲得が遅れている場合には、自分が知っている事実の通りにサリーも箱の中を探すと答えてしまいます。
今回は、このような「誤信念課題」を行いながら、脳の働きを調べる検査(機能的MRI)を施行し、“心の理論”を支える神経ネットワークについて調べた研究をご紹介します。
心の理論を支える神経接続は子どもの社会的認知と関連している
まず、9~13歳の子ども32人について、「誤信念課題」を行った際の機能的MRIで、“心の理論”に関連する神経ネットワークを調べました。
次に、それらのネットワークの活動性と社会的認知に基づく活動がどのように関連しているのかを調べました。
結果として、“心の理論”の関連部位として、両側の側頭頭頂接合部、楔前部(けつぜんぶ)、右側の上側頭溝が挙げられました。そして、特に楔前部の活動性に関しては社会認知的行動とは負の相関があることが分かりました。
どのように臨床に活かすことができるのか、すぐにはイメージしにくい研究の成果ですが、今後、なかなか捉えにくい“心の理論”というものを客観的にとらえるための基礎になることが望まれました。