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『多飲症・水中毒』 川上宏人・松浦好徳:編


「水中毒」という言葉をご存知でしょうか?

人間にとって必須であるはずの水分摂取が、あまりにも過剰になることによって電解質バランスが崩れ、頭痛・ふらつき・精神症状の悪化・意識障害・けいれん等を来し、重篤な場合には死に至ることのある病気です。

昔から精神疾患(統合失調症)の患者さんにはときどき認められる病態であり、原因として病気本来の性質による要因と、抗精神病薬の副作用による要因の両方の関与が考えられています。

本書の「推薦のことば」でふれられているエピソードが病態を印象深く記述しているので、抜粋させてください。

「当時私が主治医として診ていた統合失調症の患者が、突然意識を失って倒れたかと思うと、大量の嘔吐、尿失禁、けいれん発作が出現し、慌てて臨床検査を行うと、108mEq/ L という著しい低ナトリウム血症が認められました。(中略)その当時は多飲症や水中毒といった概念はほとんど知られておらず、かけだしの精神科医だった私には何が何だか分かりませんでした。ひょっとするとこれは命が助からないかもしれないと思い、年老いた両親を呼び寄せ、付き添ってもらいました。

 幸い翌日には意識が戻り、3日ほどして回復したのですが、なぜこうなったのか、そしてどうして回復したのか、教科書を読んだり、先輩の先生に聞いても見当がつきません。……」

上記のように現在では比較的良く知られた病態である「水中毒」ですが、かつては原因不明のけいれんや症状悪化として、抗けいれん薬投与や抗精神病薬の増量が行われることもありました。

この本は、「水中毒」について詳細に具体的対策にまで説明された非常に稀少な内容となっており、ここまでこの病態について分かり易く、病棟で実際にどのように患者さんを診たら(看たら)いいのか書かれた本はないと思われます。

第1部の25項目にわたるQ & Aに始まり、巻末の資料編に納められた多飲症看護計画、水中毒看護計画、多飲症心理教育患者用テキスト、多飲症心理教育スタッフ用マニュアルに至るまで、編著者、本書の作成に関わったすべての方たちの創意工夫や情熱が伝わってくる内容となっています。

「水中毒」や「多飲症」について関心をもたれた方には是非手に取っていただき実践に生かしていただけたらと感じる本です。

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