発達障害の中でも中心的に扱われる自閉スペクトラム症において、多くの特性が適応を阻害する要因となりやすく、うつや不安を二次障害として合併しやすいことが知られています。
特に海外においては、年少の場合、認知行動療法が大きな治療の選択肢となりますが、実際のところ自閉スペクトラム症の不安にどのくらい有効なのか、明確ではありません。
今回ご紹介する研究では、上記の疑問に答えようとすることに加えて、自閉スペクトラム症のために内容を調整された認知行動療法が、通常のものと比較して結果に違いがあるのか調べています。
自閉スペクトラム症に罹患した小児の不安に対する認知行動療法
不適応と不安を合併した自閉スペクトラム症の小児(平均 9.9歳 167人)が調査の対象となりました。
通常の認知行動療法は、感情の再認と承認、モデルの提示やリハーサル、実地での暴露や強化を含んでおり、自閉症スペクトラム向けの認知行動療法では、コミュニケーションや立場の交換を含む自己のコントロール、行動を分析する技術を含んでいます。
上記の①通常の認知行動療法と②自閉スペクトラム症向け認知行動療法、さらに③通常の治療の3つについて、“小児不安評価スケール(Pediatric Anxiety Rating Scale)”という不安を評価する指標等を用いて、治療の効果を判定しました。
結果として以下のことが示されました。
i. まず認知行動療法は両方とも、通常の治療よりは不安の軽減や適応の改善に有効でした。
ii. 自閉スペクトラム症向けの認知行動療法は、通常の認知行動療法より、さらに有効でした。
上記のような結果から考えると、まずは自閉スペクトラム症においても、不安やそれに伴う不適応に認知行動療法を行えると役立つ可能性が大きく、さらに自閉スペクトラム症に理解の深い援助者によって行われると治療効果が大きい可能性が示されました。
残念ながら、日本では当院も含めて多くのクリニックにおいて認知行動療法を専門的に行える態勢にはありませんが、できるだけそのエッセンスだけでも取り入れた診療を心がけたいと考えました。